音楽とアート業界をつなぐ“ブリッジ”。「MEET YOUR ART FAIR 2023」が示す新たな可能性

エイベックス・グループの主催により新しいアートフェア「MEET YOUR ART FAIR 2023『RE : FACTORY(リ ファクトリー)』」が東京・天王洲の寺田倉庫で開幕した。「アート×音楽」をコンセプトに掲げた同フェアはどのような可能性を示しているのか。レポートでお届けする。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、右は大山エンリコイサム《FFIGURATI #253》(2019)

 日本の音楽業界で絶大な影響力を持っているエイベックス・グループ。同社が主催するアートフェア「MEET YOUR ART FAIR 2023『RE : FACTORY(リ ファクトリー)』」(主催:エイベックス・クリエイター・エージェンシー、エイベックス・エンタテインメント)が、東京・天王洲の寺田倉庫で開幕した。会期は3月5日まで。

 コンセプトは「アート×音楽」。美術家・大山エンリコイサムをメインアーティストとアーティスティック・ディレクターに迎え、28名のアーティストによる作品100点以上で構成されるアートフェアを軸に、大山とラッパー・Novel Coreのコラボレーションによるライブパフォーマンスをはじめ、トークセッションなどのプログラムも会期中に展開される。

展示風景より、右は横田大輔の写真作品

 総合プロデューサーを務めた加藤信介(エイベックス・クリエイター・エージェンシー代表取締役社長)は開幕前の記者会見で、同フェア開催の背景について次のように振り返っている。

 「音楽業界では、例えばライブ配信やイベントなど、様々なアーティストがアウトプットできる場所やメディアがある。いっぽうでアート業界においては、日本に多様な才能を持ったアーティストがたくさんいるが、彼らが発信できるようなプラットフォームが少ないと思っていた。我々が音楽業界で培ってきたノウハウをアート業界に転化して、日本から世界に誇るべき、とくに若手アーティストを発信したいと思い、2020年12月に『MEET YOUR ART』という事業を立ち上げた」。

展示風景より

 会場は、通常のギャラリーが主体となるアートフェアとは異なり、それぞれの参加作家がひとつの壁面またはエリアを使って作品を展示。鑑賞者は自由に会場を回遊し、様々な個性を持つ作家の作品と出会うことができる。

 こうした会場構成について加藤は、「エイベックスならではのアプローチを使うことによって、いままでアートに触れたことがない人にもアートを好きになってもらう機会を創出する。また、アート市場の発展や若手アーティストの支援に貢献していくことを成し遂げたい」と意気込む。

 いっぽう大山は、エイベックスの「MEET YOUR ART」事業に関心を持って今回の企画に参画したという。「アートと音楽の領域を横断しながら、オーディエンスをつなぐことで新しいアートファンの層をつくっていくこの試みは非常に有意義だなと思う」。

「アート×音楽」の架け橋を象徴する作品ラインナップ

 展示作品を見ていきたい。会場では、音楽やサウンドに関連する要素を取り入れてつくられた作品が多数展示されていることが印象的だった。

 例えば、電気製品を用いたサウンドスカルプチャーを制作し続ける宇治野宗輝は、戦後の経済発展を象徴する様々な電気機器や家電を動かして音を立てるインスタレーションと、戦前に満州で過ごしていた作家の母親がそのときの思い出を語る映像を並べて展示。川端健太は、同フェアのオフィシャルサポーターを務める歌手/俳優である片寄涼太を描いたポートレートを発表した。

展示風景より、宇治野宗輝によるインスタレーション
展示風景より、右上は川端健太が片寄涼太を描いたポートレート

 B-BOYの身体表現をとらえた木彫で知られる小畑多丘は、音楽に乗せて踊るダンサーの体の動きを表現した絵画作品《untitled (diptych)》(2022)を展示。古着をリメイクして平面作品に仕立てる技法を用いて作品を制作する谷敷謙の新作では、ダンス&ボーカルグループ「Da-iCE(ダイス)」のポートレート写真をモチーフにライブパフォーマンスで着用していた演出服を用いることで、当時の心境を引き起こしている。また、ギターなど音楽の要素をモチーフとした大野修の彫刻作品や、マイケル・ジャクソンを描いた佐藤允の絵画、レディ・ガガがパフォーマンスの際に履いていた舘鼻則孝によるヒールレスシューズなども今回のコンセプトを象徴する代表例だ。

展示風景より、右は小畑多丘《untitled (diptych)》(2022)
展示風景より、谷敷謙の作品群
展示風景より、マイケル・ジャクソンなどを描いた佐藤允の作品

 大山は、「今回の出品作品はすべてが音楽に関係するものではなく、いいバランスで散りばめている」と強調している。今回のメインアーティストでもある大山は、2019年にニューヨークの「Tower 49 Gallery」で発表した幅18メートルの絵画大作《FFIGURATI #253》(2019)を日本で初めて公開。文字や色彩を取り除いた描線によって画面を構築するモチーフ「クイックターン・ストラクチャー」の迫力が感じられる一作だ。

展示風景より、大山エンリコイサム《FFIGURATI #253》(2019)

 そのほか、重なり合ったふたつの鳥籠を制作し、人と人の領域を巡る政治性を探求する潘逸舟のインスタレーションや、ユーモアにあふれながら美術史や時事的な主題を取り扱う加賀美健の絵画や彫刻、一見デジタル作品かのような緻密な川人綾の絵画シリーズなど、独自の表現手法を用いた作家の作品を楽しむことができる。

展示風景より、右は潘逸舟のインスタレーション。左は細倉真弓の写真作品
展示風景より、加賀美健の作品群
展示風景より、川人綾の絵画作品

 総合プロデューサーの加藤は、「今後、中長期的に持続可能なプロジェクトとして展開しながら、とくに若手発信のプラットフォームとしてより規模を拡大して未来へ紡いでいきたい」と期待を寄せつつ、「美術手帖」に対して次にように語った。

 「アートを中心にしながら、エイベックスならではの手法で見せていくという両輪が僕らにとって非常に大事だと思う。僕らのプロジェクトが大きくなればなるほど、新しくアートの領域に挑戦しようと思うプレイヤーも増えるだろうし、個々の作家のエンパワーメントにもつながるだろう。5年後、10年後、15年後には、『MEET YOUR ART』をきっかけにアーティストを目指した人が出てくるかもしれない。そういう目線を持ちながらやっていきたい」。

 近年、「Art Collaboration Kyoto」や「EASTEAST_TOKYO」など様々なアプローチをとった新しいアートフェアが続々と立ち上がるなか、「アート×音楽」を切り口にした「MEET YOUR ART FAIR」。アメリカに次ぎ世界第2位の市場規模を誇る日本の音楽業界の主要プレイヤーであるエイベックスの企画性や発信力により、アートファンの層が拡大するだけでなく、次世代のアートシーンを担うつくり手も次々と生まれていくことが期待できるだろう。

編集部

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