アート専門のYouTube番組を開設するなど、アーティストインタビューや現代美術の知識を紹介してきた、エイベックス・ビジネス・ディベロップメント株式会社のアートメディア「MEET YOUR ART」。同メディアによるアートとカルチャーの祭典「MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 ‘New Soil’」が恵比寿ガーデンプレイスで開幕した。会期は5月15日まで。
展覧会、アートフェア、ライブ、ショップなど、多彩な催しが開催される本イベントだが、なかでも注目したいのはアートエキシビジョン「The Voice of No Mans Land」と、アートフェア「"New Soil” presented by MEET YOUR ART PICK UP ARTIST and coconala」だろう。この2つの催しを中心にレポートしたい。
エキシビジョン「The Voice of No Mans Land」
「The Voice of No Mans Land」は、山峰潤也(ANB Tokyo・ディレクター)がキュレーターを務める展覧会で、人間と環境のこれからの未来についての思考をうながすもの。篠田太郎、栗林隆、大巻伸嗣、宮永愛子、鈴木ヒラク、毛利悠子、AKI INOMATA、佐々木類の8名のアーティストの作品を展示している。
山峰は開催にあたって次のように話している。「コロナ後にあらためて人間と自然との調和が問われるようになった。想像力を喚起するアートの力によって、自然との向き合い方を様々なかたちで想像できるような展覧会を目指した」。
展示作品を見ていきたい。存在の記録や保存が可能な素材として、ガラスを用いた作品をつくる佐々木類。会場では植物をはさんでガラスを焼くことで、植物の部分だけが灰となった立体作品《植物の記憶》を展示し、植物が存在したという記憶のみならず、その空間が換気する個人的な記憶との接続をうながした。
栗林隆の《元気炉》は、栗林が2020年より取り組む、内部がサウナになっている作品シリーズのひとつだ。作品名は「原子炉」ともかかっており、2006年に青森・六ヶ所村を訪ねたことをきっかけにエネルギー問題に関心を持ってきた栗林が、フィジカルなかたちでエネルギーを体験できるものとしてサウナをつくったもの。会場に置かれたクレーンとスチームの装置が大きなインパクトを見るものに与えている。
大巻伸嗣は大気を可視化したような作品《Liminal Air》を出展した。黒い影のように空中を浮遊する布状の物体は、見るものにとっての影や知覚のありかを想像させる。空気によってランダムに偶然性をもって変化する本作は、地球で偶発的に育まれた生命の意味を考えさせられる。
AKI INOMATAの《ビーバーがかじった木》は、その名のとおりビーバーがかじった木材を、彫刻作品としてとらえた作品だ。実際にビーバーがかじった木だけでなく、かじった木を木彫の職人や機械によって模造した彫刻も展示される。この一連の作品でINOMATAは、作品における恣意性のゆらぎや作者のありかを探る。
ほかにも、時間とともに変化するナフタリン彫刻を制作した宮永愛子、時間と共に気化して変化葉脈やアスファルトの白線をドローイングとして構築した鈴木ヒラクの作品が展示される。
また、自作望遠鏡でとらえた月面を作品にした篠田太郎、鳥のさえずりやテニスの音をピアノに模倣させた毛利悠子など、人間がいなくなったその先を想起させるような作品も見逃せない。
アートフェア「"New Soil” presented by MEET YOUR ART PICK UP ARTIST and coconala」
「"New Soil” presented by MEET YOUR ART PICK UP ARTIST and coconala」は、約150点の作品を展示販売するアートフェアだ。これまで「MEET YOUR ART」で紹介されてきたアーティストを含む20名の作家の作品が会場には並ぶ。
仲衿香はエイベックスのロゴマークをモチーフにした作品を出展。磯村暖は化石を思わせる立体作品を出展した。
ほかにも国家や民族に対する横断的な視点を提示する李晶玉の絵画や、菅原玄奨のFRP粘土を使った彫刻など、多様なアプローチの作品が一堂に会している。
また、会場2階は「CROSSOVER」と名打ったポップアップスペースとなり、ここでも6名の作家が作品を展示。ここは無料で誰もが訪れることができる、新たなアーティストとの出会いを創出する場となる。
マーケットエリア
「MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 ‘New Soil’」は、アートと様々なジャンルをクロスオーバーさせる試みが特徴だ。屋外広場のマーケットエリアでは、ファッションやライフスタイル関連のテントが出店、フードやドリンクも提供される。
このマーケットエリアを含めた広場の空間演出を手がけたのが建築家の永山祐子だ。「ドバイ国際博覧会日本館」や「東急歌舞伎町タワー」を手がけた永山は、街路樹の剪定材を使用して広場の入口のアーチをつくりあげた。都市における自然である街路樹が廃棄物を生み出しているという状況を考えさせる意匠となっている。
また、広場の中央には藤元明+藤崎了一による大型作品も展示。採集した海ゴミを素材とした立体作品は、ゴミを通して、日々の生活からこぼれ落ちていったものについての意識を喚起させる。
広場の奥にはステージとスクリーンも設置され、ここでは開催期間中、音楽ライブやトークセッションが行われる予定だ。
エイベックス・グループが満を持して開催しているアートイベント。新たなアートへのアプローチを現地で確かめてみてはいかがだろうか。