ペロタン東京が、同会場では2回目となるダニエル・アーシャムの個展「31st Century Still Lifes(31世紀の静物)」をスタートさせた。会期は10月15日まで。
2018年にペロタン東京で開催されたアーシャムの個展では彫刻作品を中心に展示していたが、本展では彫刻の新作に加え、静物画やドローイングの新作も発表。学生時代に絵画を専攻していたアーシャムは、コロナ禍による都市封鎖のなかでふたたび絵画作品の制作に取り組み始めたという。
本展のために来日したアーシャムは開幕にあたり、「(コロナ禍以降制作した)最初のペインティングは、学生時代に描いたものを思い起こさせる壮大な風景画のようなものだった。その特徴のひとつは、ペインティングのテクスチャーが非常にフラットであることで、私は自身の痕跡を消そうとした」と話す。
しかし、本展で発表された新作の静物画5点は、ニューヨークの絵具メーカーがアーシャムのために開発した厚みのテクスチャーのある絵具を用いて、厚塗りの技法を駆使して制作されたもの。オランダ黄金時代の静物画を思わせる画面には、アーシャム自身がつくったギリシャの神の彫刻をはじめ、スタジオにある本、スニーカー、バスケットボールなど身近なモチーフが描かれている。それぞれのモチーフは作家自身との個人的な関係性を重層的に物語っており、「現代文化や歴史について考えさせる」ものでもある。
静物画の作品と同じ展示室で展示された彫刻の新作2点は、ギリシャのオリンピア考古学博物館に所蔵されるギリシャの神の彫刻と、フィレンツェのサン・ロレンツォ教会に所蔵されるミケランジェロの彫刻の一部をモデルにして制作したもの。表面にパテ処理を施したブロンズと磨き上げられた光沢のあるステンレスを組み合わせることで、「時間のなかに浮かんでいる」「過去と未来が混在している」ような感覚を呼び起こしている。
隣の展示室では、『E.T. 』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『2001年宇宙の旅』の映画ポスターを、アーシャムの代表的な手法「Fictional Archaeology(フィクションとしての考古学)」で表現した3つの立体作品が展示されている。現代的なイメージと考古学的な水晶をミックスさせることで、これから続く膨大な時間の流れを感じさせる。
また最後の展示スペースでは、アーシャムのドローイング2点がペロタンの取り扱い作家の作品ととも紹介されている。
アーシャムの絵画や彫刻作品の原点ともいえるドローイング作品は、彼とって「もっとも身近なもので、自分の作品宇宙への入り口のようなものだ」という。他者との協業が必要となる彫刻作品とは異なり、アーシャムの創作をもっとも直接的に感じとることができるだろう。
これまで彫刻作品に長年取り組んでおり、多数のアイコニックな作品を生み出してきたアーシャム。制作の原点のひとつに立ち返り、新たな考察を取り入れたその絵画やドローイングの新作も楽しめる機会をお見逃しなく。