2022.4.28

布施琳太郎が手がけるキュレーション展「惑星ザムザ」が開催へ。カフカの『変身』の主人公から名付けられた場所で観測されるものとは

「テキスト以前の物質」を出発点とする布施琳太郎のキュレーション展が、新宿区にある製本印刷工場跡地で開催。展覧会名は、フランツ・カフカが110年前に書いた小説『変身』における主人公「ザムザ」から命名した。会期は5月1日〜5月8日。

展示風景より、MES《Stellar's End /恒星の終り》(2022)
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 布施琳太郎のキュレーション展、『惑星ザムザ』が5月1日~8日の会期で開催される。新宿区にある製本工場跡地のビルの全6フロアに、「テキスト以前の物質」を出発点に集まった総勢17名の作品が並ぶ。

会場外観 撮影=竹久直樹

 布施琳太郎は、絵画や映像作品の制作と並行して評や詩の執筆を行うアーティスト。また、情報空間と現実空間、テキストと画像などを巧みに組み合わせるキュレーションを行うことでも知られている。

 これまで手がけた展示には、ひとりずつしかアクセスできないウェブページを会場とした「隔離式濃厚接触室」(2020)や、600ページに及ぶハンドアウトを片手に造船所跡地(現在のクリエイティブセンター大阪)を巡る、「沈黙のカテゴリー|Silent Category」(2021)などが挙げられる。 

展示風景より、名もなき実昌《いつかはきえる☆*:.。_(┐「ε:)_。.:*☆》(2022)

 「匿名の人々によって際限なく拡散する言葉とイメージによる織物は、それぞれの状況において、あまりに自由に、虚実を超えた言説を作り出していく」と現状を言明する布施。本展の開催にあたって彼は、テキストの以前の物質から思考を開始することを選び、書物的な理性よりも、インクや唾液、紙、明滅、線、面、電気信号、塩基配列、振動、空気 といった物質に、芸術作品の制作の根拠を求めるようになったという。

 「これら物質が、安定したテキストやコンテキストに到達することなく、身勝手な生命活動を開始した状況を観測することこそ『惑星ザムザ』の目的」 「この展覧会の観測は、私たちが、なにものともつなげられていない孤独な存在だった記憶を回復させるだろう。 」(ステートメントより一部抜粋)

展示風景より、米澤柊《絶滅のアニマ》(2022)

 6フロアの広大な会場では、多数の若手アーティストの新作インスタレーションを目にすることができる。加えて、ロシア出身のネット・アー ティストとして知られるオリア・リアリナによる匿名通信を用いた《セルフ・ポートレート》(2018)、百瀬文による《Born to Die》(2020)、青柳菜摘による《孵化日記旅行》(2015)などの過去作品も数多く展示される予定だ。

展示風景より、オリア・リアリナ《セルフ・ポートレート》(2018)

 布施と共に本展の企画運営を行う、田中勘太郎と株式会社ユニーク工務店・リレーションシップは、会期終了後に、会場ビルの継続的利用のための改装を手がけることになっている。田中はまた、会期中にビルの改装工事にあたって生じる産業廃棄物の重さを用いた「押し花」を展示する。

展示風景より、田中勘太郎《上書きの下のミイラ》(2022)

 株式会社ユニーク工務店・リレーションシップは、古くより印刷工場・製本所の街として栄えていた会場近辺が、印刷業界の転換期に伴って環境に建築が対応していく様を「新陳代謝を繰り返す東京の象徴」と言う。そして、十数名のアーティスト達が提示するそれぞれの思想を包括した会場において「都市の在り方にも考えを及ぼす機会を提示したい」と、本展開催への想いを綴っている。

展示風景より、宍倉志信《P.S. Installer》(2022)

 本展のタイトルは、110年前にフランツ・カフカによって執筆された小説『変身』の主人公グレゴール・ザムザの名前から名付けられた。製本工場跡地を舞台とした本展が、『変身』を題材とするのはなぜか。布施は次のように説明する。

 「それが布と糸のあいだで振動する物語だからである。物語に至るまでのザムザは、布地の販売員をしていた。布地、それはtextileであり、textの語源である。そしてtextileは、編まれた糸によって作られたものだ。この展覧会で僕が垣間見たいのは、編まれた糸がひとつの布地になることに失敗し続ける物語である。 その失敗から未来について考えたい。いくつものマテリアルが、見たこともない異形を形作る惑星で、私たちの生きる社会の未来について考えたい。そこでどんなテキストが書かれることができるのか、何を物語ることができるのか、どんな夢を見ることができるのか。 そのための旅路として、ここに『惑星ザムザ』を開催する」 (本展に布施が寄せたステートメントより、一部抜粋)

 新陳代謝する都市、東京。迷路のように入り組んだ工場跡地を巡り芸術作品と出会うなかで、私たち一人ひとりは何を観測するのだろうか。ぜひ会場に足を運び、確かめてほしい。