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東京都庭園美術館で「奇想のモード」がスタート。シュルレアリスムとモードに通底する「奇想」の系譜をたどる

シュルレアリスムを起点に「奇想」というテーマを設定し、モードや現代美術に受け継がれるその系譜をたどる展覧会「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」が東京都庭園美術館で開幕した。

展示風景より、エルザ・スキャパレッリによるイヴニング・ケープ(1938、中央下)や、イヴニング・ドレス(1935夏、中央左)

 20世紀最大の芸術運動であるシュルレアリスムを起点に、その運動がモードの世界に与えた影響や、現代にいたる系譜をたどる展覧会「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」が、東京・白金の東京都庭園美術館で開幕した。

 本展はマン・レイ、サルバドール・ダリ、ジョルジョ・デ・キリコ、ルネ・マグリットといったシュルレアリストの作品や、シュルレアリスムから強い影響を受けたエルザ・スキャパレッリのドレスやアクセサリーなどを展示するとともに、これらの運動を端緒に「奇想」というテーマを設定。現代美術にまで受け継がれるその系譜をたどりながら、作品を展示する。

展示風景より、中央はサルバドール・ダリ《抽き出しのあるミロのヴィーナス》(1936-64)

 担当学芸員の神保京子によると、本展はシュルレアリスムとモードのみならず、その前後にも広がる「奇想」の視点を俯瞰的にとらえ、ひとつの大きなダイナミズムとして見せることを目指したという。

 展覧会は8章構成となっている。第1章の「有機物の偏愛」では、動植物を素材やモチーフとして取り入れたアクセサリやドレスを展示。昆虫学者として有名なアンリ・ファーブルのひ孫である、ヤン・ファーブルによるタマムシの羽をつかったカラーや、タマムシやスカラベを模した19世紀のブローチを紹介。また、メゾン・マルジェラをはじめとするモードのコレクションより、動物の毛に発想を得たアイテムも展示される。

展示風景より、左からサルバドール・ダリ《炎の女》(1980)、中央はヤン・ファーブル《甲冑(カラー)》(1996-2002)
展示風景より、タマムシやスカラベをモチーフとしたブローチ(19-20世紀)

 第2章「歴史にみる奇想のモード」では、細いウエストへの憧憬から生まれたコルセットや、小さな足を美徳とした中国の纏足など、フェティッシュな願望から生まれた品々を見ることができる。また、紙製の着せかえ人形や、コルセットの歴史を伺わせる資料なども展示される。

展示風景より、コルセット(1880頃)
展示風景より、纏足靴(19世紀末〜20世紀初頭)
展示風景より

 第3章「髪(ヘアー)へと向かう、狂気の愛」では、人体の一部である髪をジュエリーに組み込んだものや、モードの文脈に引きつけたドレスを展示。故人の髪の毛が収められたペンダントトップや、小谷元彦の三つ編みの髪を使ったドレス、マルタン・マルジェラによる頭髪のプリントドレスなどで、マテリアルとしての髪の扱われ方をたどる。

展示風景より、マルタン・マルジェラのドレス(2004秋冬)
展示風景より、小谷元彦《ダブル・エッジド・オヴ・ソウト(ドレス02)》(1997)
展示風景より、中央が故人の髪が入ったブローチ(1858)

 第4章「エルザ・スキャパレッリ」では、1927年にデビューし、奇抜なアイデアで一世を風靡したデザイナー、エルザ・スキャパレッリの仕事を取り上げる。スキャパレッリはシュルレアリスムに近い場所でも活躍しており、「トロンプルイユ(だまし絵)」的なセーターのアイデアや、ジャン・コクトーやダリらとのコラボレーションでも知られている。

展示風景より、エルザ・スキャパレッリによるイヴニング・ケープ(1938、中央下)や、イヴニング・ドレス(1935夏、中央左)

 展示では奇想天外な香水瓶やクリスチャン・ベラールが手がけたデザイン画をきらびやかな刺繍で表現したイヴニング・ケープや、色とりどりのマッチ柄を採用したイヴニング・ドレスなど、奇想のアイデアがつまった服の数々を目にすることが可能だ。

展示風景より、エルザ・スキャパレッリの香水瓶「Shocking」(1937、中央)ほか

 第5章「シュルレアリスムとモード」では、シュルレアリスム運動が内包していたモード的な要素を取り上げる。とくに裁縫は、シュルレアリスムの表現においてたびたび使用されたモチーフとなる。マン・レイの写真作品や、ハインリッヒ・マーラーによるポスター、『ハーパス・バザー』や『ヴォーグ』といったファッション誌の表紙など、展示からはその傾向が強く読み取れるだろう。

展示風景より、右がハインリッヒ・マーラーによるPKZ社のポスター(1939)
展示風景より、1930年代の『ヴォーグ』

 また、表現としての分断化された身体のパーツも、シュルレアリスムの文脈では頻出する。マックス・エルンストによるポスター、ポール・エリュアール/マン・レイによる写真集、メレット・オッペンハイムによるマルチプルには手のモチーフが使われている。いっぽうで、ハリー・ゴードンの片目を大きくプリントした1960年代のペーパー・ドレスは、シュルレアリストたちの不安感あふれる目ではなく、若々しい感性として目が使われており、時代の変遷とともにモチーフの扱われ方も変化していることがうかがえる。

展示風景より、左からハリー・ゴードン《ポスター・ドレス》(1968頃)、『ハーバパス・バザー』1938年10月号

 マネキンもシュルレアリストに好まれたモチーフだ。マン・レイやジョルジュ・デ・キリコ、平井輝七、ハンス・ベルメールなどの表現から、各作家がどのようにモチーフを捉えていたのかを探りたい。

展示風景より、中央左からサルバドール・ダリ《懐古的女性胸像》(1933-77)、マン・レイ《修復されたヴィーナス》(1936/71)、
展示風景より、右がジョルジュ・デ・キリコ《ヘクトールとアンドロマケー》(1930頃)

 第6章「裏と表─発想は覆す」では、マグリットやマルセル・デュシャンらの既成概念を覆すような作品とともに、マルタン・マルジェラのジャケットや熊谷登喜夫、ヴィヴィアン・ウエストウッドの靴など、モードの文脈の品々も展示。共通する発想の転換の妙味を感じることができるだろう。

展示風景より、マン・レイ《室内または静物+部屋》(1918)
展示風景より、中央がマルタン・マルジェラのジャケット(1997春夏)
展示風景より、左から熊谷登喜夫《靴「食べる靴」》《パンプス「食べる靴」》(ともに1984頃)
展示風景より、ドルチェ&ガッバーナのネックレス(2005秋以降-06)

 第7章の「和の奇想─帯留と花魁の装い」では、日本における「奇想」の系譜として、コウモリやムカデといった奇抜モチーフの帯留が取り上げられる。

展示風景より、帯留「ムカデ」(昭和期)

 ここからは場所を新館に移し、ホワイトキューブでの展示となる。新館の展示室では、公立館初の展示となったユアサエボシの新作絵画が来場者を迎える。架空の物故作家「ユアサエボシ」がシュルレアリスムの影響を受けて描いたとされるトルソーの絵は、シュルレアリスム的絵画を批評的な知見とともに描き出した本作は、第5章「シュルレアリスムとモード」と呼応している。

展示風景より、左からユアサエボシ《着衣のトルソーと八つの砲弾》、《着衣のトルソーと二匹の魚》、《着衣のトルソーと燃えている本》(すべて2021)

 また、第7章の「和の奇想─帯留と花魁の装い」と対応するかたちで二代歌川豊国や四代歌川豊国、歌川国貞、豊原国周らによる、花魁の浮世絵も展示される。

展示風景より、浮世絵

 最後となる第8章「ハイブリッドとモード─インスピレーションの奇想」の冒頭では、舘鼻則孝による圧巻の大型作品群が展示されている。花魁の高下駄からインスピレーションを受け「ヒールレスシューズ」を制作する舘鼻。展示では、「奇想」の巨大なシューズとともに平面作品も展開され、空間に一体感を生み出した。

展示風景より、手前が舘鼻則孝《ベビーヒールレスシューズ》(2021)
展示風景より、手前が舘鼻則孝《フローティングワールド》、奥が《ディセンディングペインティング》(ともに2021)
展示風景より、左から舘鼻則孝《太郎へのオマージュ:ヘアピン/太陽》、《太郎へのオマージュ:呪力の美学 #2》、《太郎へのオマージュ:ヒールレスシューズ/太陽の靴 #2》、《太郎へのオマージュ:呪力の美学 #1》(すべて2016)

 ほかにもこの章では串野真也の動植物をモチーフとした数々の靴や、永澤陽一による本物の馬の毛を使用したジョッパーズパンツ、「曲線の女王」ザハ・ハディドのメタリックで硬質な靴、ANOTHER FARMの発光する遺伝子を組み込まれた蚕による絹糸の衣服などが展示され、現代に受け継がれてきた「奇想」のハイブリッドを楽しめる。

展示風景より、左から串野真也《Sphinx of the forest》《Guardian deity Bird》、《Guardian deity Crocodile》(すべて2017)
展示風景より、串野真也《Bird-witched》(2014)
展示風景より、永澤陽一《恐れと狂気》(2008)
展示風景より、ANOTHER FARM《Modified Paradice》(2018)

 博物からファッション、現代美術まで、幅広い分野を横断しながら「奇想」の系譜を追う本展。それぞれの作品が発する価値のせめぎ合いを、現地で体感してはいかがだろうか。

展示風景より、サルバドール・ダリ《象徴的機能を持つシュルレアリスム的オブジェ》(1932-75)

編集部

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