2010年より継続して行われているエルメス財団の「アーティスト・レジデンシ―」。その10周年を記念する展覧会「転移のすがた」が、東京の銀座メゾンエルメス フォーラムで始まった。会期は2022年4月3日まで。
同財団のアーティスト・レジデンシ―では、この10年の間に34人のアーティストが参加し、21ヶ所のエルメスの工房に滞在。皮革やシルク、クリスタル、シルバーなど様々な素材を用いながら職人技術に触れ、好奇心あふれる作品が制作されてきた。その活動の成果はこれまで「コンダンサシオン」展(パリ、2013年/東京、2014年)、「眠らない手」展(パリ、2017年/東京、2018年)などを通して紹介されており、記憶にある人も多いだろう。
本展は、こうしたアーティスト・レジデンシ―の10周年の節目を記念するもので、ソウル、東京、パンタン(パリ郊外)でほぼ同時期に開催。過去10年間の歩みのなか、職人、アーティスト、メンターの間で交わされ、紡がれてきた様々な「転移」のすがたを、3都市それぞれ異なる視点から複層的に回顧する、というものだ。
銀座メゾンエルメス フォーラムでは、2020~2021年のプログラムに参加したクロエ・ケナムとイザベル・コルナロ(メンター)、エンツォ・ミアネスとミシェル・ブラジー(メンター)、小平篤乃生とジュゼッペ・ペノーネ(メンター)という3組のアーティストとメンターが参加。3つの部屋に分け、それぞれのペアの共鳴を見せる。
それぞれのアーティストとメンターの出会い方は個性的で、クロエ・ケナムとイザベル・コルナロは同じグループ展に参加したことをきかっけに交流が始まったという。エンツォ・ミアネスとミシェル・ブラジーはパリのバーで出会ったことで意気投合。小平篤乃生とジュゼッペ・ペノーネは師弟関係だ。
モノとイメージの関係性や、それらが象徴、流通する社会への批判的な眼差しを共有するクロエ・ケナムとイザベル・コルナロ。エンツォ・ミアネスとミシェル・ブラジーは既製品やファウンド・オブジェなどを用い、時間の経過とともに変化していく作品を生み出す。また小平とペノーネはともに自然素材を扱い、自然との直接的な関わりのなかから作品を生み出していく姿勢が共通している。
本展会場は、各アーティストとメンターの作品が融合するように展示を構成している。アーティストとメンターが呼応し、関係を結ぶことで生まれたインスタレーションに注目だ。