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常盤橋タワーで見る18のパブリック・アート。「ビジネスマンにアートで刺激を」

7月21日に開業を迎える東京駅前の高層ビル「常盤橋タワー」。その館内に、上海を拠点に活動するアートとデザインの企画・開発を手がけるユニット「コダマシーン(金澤韻+増井辰一郎)」がキュレーションおよびディレクションしたパブリック・アートが設置された。

展示風景より、桑田卓郎《陶木》(2021)

 三菱地所が手がける、東京駅日本橋口前に位置する常盤橋街区の開発プロジェクト「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」。その一部として7月21日に開業を迎える高さ約212メートルの「常盤橋タワー」が、館内のパブリック・アートとともに公開された。

常盤橋タワー

 商業施設兼オフィスビルである「常盤橋タワー」でアートのキュレーションおよびディレクションを行ったのは、2018年に上海で活動をスタートさせたアートとデザインの企画・開発ユニット「コダマシーン(金澤韻+増井辰一郎)」だ。金澤韻は現代美術キュレーターとして国内外で数多くの展覧会を企画・制作した実績を持ち、増井辰一郎は建築・デザイン・現代美術の分野で設計とマネジメントを行ってきた。建築や環境の中にアートをインストールすることで、国境や境界を超えて人と人をつないでいくことを使命とするふたり。常盤橋タワーでは、「伝統の中に光る奇想の系譜」をコンセプトに、作家選定を行ったという。

「常盤橋は、もともと江戸城へと向かう表玄関。江戸文化から高度成長を支えたインフラがある場所だ。過去から未来へとつながる時間軸や未来志向を軸にして、日本文化をベースにしつつ、グローバルを感じさせる40代以下のアーティストをメインに選定した」と金澤は語る。

コダマシーン(金澤韻+増井辰一郎)

 常盤橋タワー内のパブリック・アートは一般来館者に開かれたものもあるが、ビル内のビジネスマンのみが鑑賞できる作品も多い。これは、三菱地所の「ビル内の就業者にアートで刺激を与えたい」「答えのないアートで議論が生まれ、新しいアイデアを生み出す」という考えがあってのことだ。

 まず一般来館者も鑑賞可能なものとして、オフィスエリアと商業エリアをつなぐ通路に設置されたKIGIの《マワレ!セカイ》(2021)を紹介したい。グラフィックデザイナーユニットとして活動するKIGIだが、いっぽうでアーティストとして独自の作品をつくる活動も行っている。今回は、伝統的な江戸独楽をテーマに、グラフィカルな作品を制作。商業エリアにつながる通路という場所柄、楽しさやワクワク感が表現された。

展示風景より、KIGI《マワレ!セカイ》(2021)

 B3Fの来客用エレベーターホールでは、ウェブサイトを動く絵画としてとらえ、作品を生み出すラファエル・ローゼンダールの作品《into Time 20 08 13》(2021)を見ることができる。特定のウェブサイトを独自のプラグインで変換し、レンチキュラープリントで重ねた本作。平面でありながら鑑賞角度でgifのような変化を見せる。

展示風景より、ラファエル・ローゼンダール《into Time 20 08 13》(2021)

 3階にある飲食フロアでは3人の作品が展示されている。吉野ももの《Kami》(2021)はだまし絵の手法で描かれた平面作品だ。折り紙を折り、開き、それをモチーフに描いたもので、平面と立体の関係を強調している。

展示風景より、吉野もも《Kami》(2021)

 建築からテキスタイルにシフトしたアーティスト・森山茜がつくり出すのはナイロンメッシュによる《スペクトラム》(2021)。京都の職人がナイロンメッシュをグラデーションで染めた本作は、空気と光がとどまっているような立体作品となっている。

展示風景より、森山茜《スペクトラム》(2021)
3階には鈴木啓太の漆と箔による作品《ISHIGAKI》(2021)も展示

 2階のTOKYO TORCH Terraceでは、「ネオ漫画」と称される作品で知られる横山裕一による巨大な作品《ふろば》(2021)が存在感を放つ。常盤橋が銭湯発祥の地と言われることから、横山は銭湯をイメージして作品を制作。様々な登場人物が、国境や性別を超えたビジョンを提示している。

展示風景より、横山裕一《ふろば》(2021)

 ここからは、常盤橋タワーのオフィスワーカーのみが鑑賞できる作品を紹介したい。

 B4階のオフィスエレベーターホールと、オフィスエントランスにはそれぞれワン・イー《地中の日の出》(2021)と横山修《aqua Ⅱ》(2021)が、B3階のオフィスエレベーターホールと、オフィスエントランスには大庭大介《6》(2021)とジェイコブ・ハシモト《The Universal Constrains of Memory and Madness》(2021)が展示。

展示風景より、横山修《aqua Ⅱ》(2021)
展示風景より、大庭大介《6》(2021)

 VIPエリアへとつながる1階エレベーターホールには、ジョン・ヘリョンの巨大な作品《A Line of the Projection》(2021)が設置された。水引を連想させる構造を持つ本作。ヘリョンは東アジアで共有されている文化を土台に、LEDの鮮やかな光によって四季を表現したという。

展示風景より、ジョン・ヘリョン《A Line of the Projection》(2021)

 2階のオフィスロビーに鎮座するのは、桑田卓郎による大作《陶木》(2021)だ。内なるエネルギーが外にあふれ出すような本作。ボディの緑色は、常緑樹の葉が色を変えないことを意味する「常盤」から着想された。茶碗という伝統から発展し、外へ出て行くエネルギーを表現するこの作品は、常盤橋タワーのアートコレクションを象徴するものだ。

展示風景より、桑田卓郎《陶木》(2021)

 9階「The Premiere Floor」に展示された品川亮の《白椿》(2021)も、伝統と革新という点から重要な作品だ。和紙に金箔を貼り付け、日本画の「琳派」を連想させるものだが、極端にデフォルメされた植物や雲が、現代的なポップさを表す。

展示風景より、品川亮《白椿》(2021)

 このほか8階の「常盤橋タワーラウンジ」には、あえてミシンにエラーを起こさせた刺繍作品をつくる宮田彩加の《WARP- ポピーを形成するプロット》(2015-2021)や、色ガラスを重ねることで浮世絵のような複雑な色味を実現させたNEW LIGHT POTTELYの《overlay》(2021)、丸・三角・四角がペイントされた木製パネルを組み合わせることで「ルール」とは何かという疑問を投げかける荒牧悠《青と赤の構成》(2021)などが展示。

展示風景より、宮田彩加《WARP- ポピーを形成するプロット》(2015-2021)
展示風景より、NEW LIGHT POTTELY《overlay》(2021)
展示風景より、NEW LIGHT POTTELY《overlay》(2021)
展示風景より、荒牧悠《青と赤の構成》(2021)

 なお常盤橋タワーの横には、2027年度に高さ約390メートルという「TorchTower(トーチタワー)」も竣工予定。三菱地所はこのビルにおいてもアートを取り入れたいとしており、「TOKYO TORCH」はアートスポットとしても今後注目を集めそうだ。

ビル前の広場には長坂常 / スキーマ建築計画によるベンチ、テーブル、スツールなどが置かれている

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