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静嘉堂文庫美術館、移転前最後の展覧会。国宝7点とともにその歴史をたどる

岩﨑彌之助(1851~1908)と岩﨑小彌太(1879~1945)の父子二代によって設立された世田谷区岡本の静嘉堂文庫美術館が、2022年に丸の内に移転する。その移転前最後の展覧会「旅立ちの美術」が始まった。

展示風景より

 20万冊の古典籍(漢籍・和書)と6500点の東洋古美術品を収蔵する世田谷区岡本の静嘉堂文庫美術館。2022年の移転を前に、最後の展覧会が始まった。

静嘉堂文庫美術館

 同館の始まりは、1892年に岩﨑彌之助(三菱第二代社長、1851~1908)が神田駿河台の自邸に設立した「静嘉堂文庫」に遡る。彌之助の書斎の名前から取られた静嘉堂はその後、息子の岩﨑小彌太(1879~1945)によって高輪に移設。1924年には現在の場所へと移り、77年には「静嘉堂文庫展示館」として美術品の一般公開を開始。その後92年には、静嘉堂創設100周年を記念した新館が建設され、現在の「静嘉堂文庫美術館」として開館を迎えた。

1924年に竣工した静嘉堂文庫

 この美術館が、2022年には展示ギャラリーを丸の内に移転(美術品の保管管理・研究閲覧業務と、静嘉堂文庫(書庫)や敷地・庭園の管理業務は引き続き現在の場所で継続される)。1934年に竣工し、昭和の建築物としては初の重要文化財となった歴史的建造物「明治生命館」の1階で、新たなスタートを切る。

 この移転前最後の展覧会となるのが、4月10日に始まった「旅立ちの美術」だ。

 展示は「旅立ちー出会いと別れの物語」「理想郷へー神仙世界と桃源郷」「名品の旅路ー伝来の物語」「旅する静嘉堂ー静嘉堂の歩んだ130年」の4章で構成され、いずれも美術館の移転という「旅立ち」にリンクするものとなっている。

展示風景より

 世界に3点しか現存しない中国・南宋時代の国宝《曜変天目(稲葉天目)》、俵屋宗達が源氏物語の一場面を描いた《源氏物語関屋澪標図屏風》(1631)など、本展では静嘉堂文庫美術館が所蔵する国宝7点すべてが一堂に展示されている。

 作品はそれぞれの来歴にも注目だ。例えば《曜変天目》は1934年に岩崎小彌太が入手したものの、「天下の名器」であることから、それを生涯使うことはなかったという。

展示風景より、《曜変天目(稲葉天目)》(12〜13世紀)

 メトロポリタン美術館での展示歴もある《源氏物語関屋澪標図屏風》は、岩崎彌之助が醍醐寺復興の寄進をしたことから、その礼として譲り受けたとされている。

展示風景より、俵屋宗達《源氏物語関屋澪標図屏風》(1631)

 また国宝《倭漢朗詠抄 太田切》(11世紀)は、藤原公任撰の『倭漢朗詠抄』を金銀泥の下絵を加え書き写した巻子の一部。こうした平安時代の古筆は室町時代以降、分割されることが多く、「太田切」も上下の軸に切り分けられた。ふたつの軸はそれぞれ別の人物が所有していたが、岩崎彌之助が入手。岩崎家で再会を果たしたという来歴がある。

展示風景より、《倭漢朗詠抄 太田切》(11世紀、部分)
展示風景より、《倭漢朗詠抄 太田切》(11世紀、部分)

 彌之助の収集が絵画、彫刻、書跡、漆芸、茶道具、刀剣など広い分野にわたったのに対して、小彌太は、とくに中国陶磁を系統的に収集した。本展は名品それぞれの旅路とともに、岩崎家と美術との関わりを概観するものでもある。静嘉堂が歩んできた長い歴史を、この機会に振り返りたい。

展示風景より、静嘉堂文庫美術館の過去の展覧会をまとめたもの

編集部

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