人とテクノロジーの関係を探求しつづけ、今年設立15周年を迎えるrhizomatiks(ライゾマティクス)。その美術館では初となる大規模個展「ライゾマティクス_マルティプレックス」が、東京都現代美術館でスタートした。会期は6月22日まで。
プログラマーや研究者をメンバーに含むライゾマは、ハードとソフトの開発からオペレーションにいたるまで、チームが一貫して取り組むフルスタック集団。ビョーク、Perfume、ELEVENPLAYといった世界的なアーティストとのコラボレーションに加え、多様な視覚化や問題提起型のプロジェクトは国際的に高い評価を得ている。
本展は、研究開発からエンターテインメントまで、その15年にわたる領域横断的な活動を総覧するもの。これまでも3つの展覧会でライゾマを紹介してきたキュレーターの長谷川祐子は、「ライゾマのユニークな点は、集団としてひとつのコンセプトを実現するために、デバイスを含めて自分たちでつくっていくところにあります。ある仕組みがどのように世界を変えていくかを視覚化し、それを体感的に見せるデータビジュアライゼーションも重要な活動です。本展では、現代において新しさとは何なのかが深く問われています」とコメントした。
展覧会は2つの新作からスタート。《Rhizomatiks Chronicle》は、15年で約600のプロジェクトを手がけ、クリエイティブな新陳代謝を繰り返してきたライゾマの歴史を樹形図のような映像インスタレーションとして提示するもの。いっぽう《NFTs and CryptoArt-Experiment》が題材とするのは、近年注目を集めるNFT(代替不可能な暗号通貨)だ。ここでは、NFTマーケットプレイスのひとつである「OpenSea」上で行われる売買のデータがリアルタイムで分析・可視化されている。
本展のハイライトとなるのが、演出振付家・MIKIKO率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」との共作《multiplex》(2021)。ステージを模した横長の空間には映像がプロジェクションされ、そのなかを立方体が動いている。そして手前の展示室で上映されるのが、ダンサーの動きをモーションデータ化し、この空間にAR的に合成した映像だ。リアルな表現をバーチャル空間にも展開する技術は、ライゾマの真骨頂といえる。
また、会場の吹き抜け空間には、国内外で高い評価を得た2011年の作品《particles》をアップデートした《particles 2021》を展示。これは、8の字状に組まれた巨大なレールを転がるボールによって空間に像を浮かび上がらせる作品だ。以前はボールにLEDを内蔵し明滅のタイミングを調整していたが、今回はボールの位置情報を取得するシステムを開発。ボールを正確にトラッキングするレーザー照射によって、立体的な視覚表現が実現した。
そのほかにも会場には、脳情報デコーディング技術を用いたものなど現在開発中/進行中のプロジェクトを紹介する「R&D(リサーチ&ディベロップメント)」や、多様なコラボレーションやクライアントワークに加え、オリジナルデバイスの実物や貴重な資料を展示する「Rhizomatiks Archive & Behind the scene」といったセクションで、多彩な活動とその舞台裏を紹介する。
そして最後を飾る「Epilogue」では、文字通りのエピローグとして、本展で使われているソフトウェアのコントロール画面を展示。圧倒的なビジュアルの裏側にある、ライゾマの根幹としての技術を垣間見ることができる。
また本展では事前申込制で、展示室内の位置情報を取得する実験デバイスを装着しながら鑑賞することが可能。立ち位置や向いている方向が記録され、このデータは本展のオンライン会場でビジュアライズされるという。
人々の活動のオンライン化が求められ、コミュニケーションのあり方も変化しつつある現在。バーチャルとリアルのあいだで揺れ動く私たちの身体に様々な角度からアプローチするライゾマの活動には、新たなアーティストの役割を見ることができるだろう。