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「男性彫刻」を通して見えてくるものとは何か? 東京国立近代美術館のコレクション小企画に注目

東京国立近代美術館で、同館所蔵品を使った小企画展「男性彫刻」が行われている。20世紀初頭から1940年代にかけて日本で生み出された男性をかたどった彫刻を展覧するこの企画にはどのような意図が込められているのだろうか? 担当研究員の鶴見香織に聞いた。

展示風景より、荻原守衛《文覚》(1908)

 東京国立近代美術館の2階にあるギャラリー4。ここで同館のコレクションを利用した小企画「男性彫刻」が開催されている(〜2021年2月23日)。

 本展は、そのタイトルにある通り男性をかたどった彫刻をメインとした展示。会場に並ぶのは、20世紀初頭から1940年代にかけて、男性作家によって生み出された彫刻・絵画作品約20点だ。

 会場は筋骨隆々とした「強い男」たちの彫像から始まり、偉人たちをかたどった肖像彫刻、そし老人や子供といった「弱い男」という順に作品が配されている。

展示風景より

 アート界のジェンダーバランスが大きな注目を集める現在において、この「男性彫刻」展が意図するものはなんなのか? 企画した東京国立近代美術館主任研究員の鶴見香織はこう話す。

 「これまで女性作家や女性表現の問題は数多く語られているし、みんなが注目していますよね。でもジェンダーを言うなら当然男性もあるわけで、そっちはこれまであまり注目されてきませんでした。男性にフォーカスすれば、作家が男性であることからくるジェンダーの論点のひとつが小さくなるので、時代が男性に求めた『こうあるべき』『こうでよい』の押し付けと、男性像のつくられかたのあいだにある問題がもっとクリアに見えてくると期待したのです」。

展示風景より

 本展には、いわゆる「名品」とされるものがズラリと並んでいるわけではない。そこにも狙いがある。「当館には男性像のいわゆる名品もありますが、それが幅を利かすとほかは引き立て役で終わってしまう。そうではなく、2番手3番手の作品も平たく見て初めて、男性彫刻で表現されがちないくつかの傾向が見えてくると思うのです」。

 例えば肖像彫刻は社会的地位が比較的高い人物がモチーフとなるが、それらのポージングは裸体彫刻とはまったく異なっている。裸体彫刻では足を広げたものや筋肉を強調したものがある種の「パターン」だが、肖像彫刻ではそもそも衣服をまとっている点からも明らかな差異が見られる。

展示風景より、手前は平櫛田中《鶴氅》(1942)
展示風景より、柳敬助《藤山雷太氏像》(1921)、北村西望《藤山雷太氏像》(1932)

 鶴見はこう指摘する。「肖像彫刻は服を着ているのに、そうじゃない場合はなぜ裸体なのか? 同じ老人でも、服を着ているものと着ていないものとの違いとはなんなのか? 例えば何か不文律があったりするのか? 本展では、裸とか着衣とか年寄りとか子供とか、色々な男性像を展示することで男性に向けられた様々な期待や押し付けを示したい。そこには階層など社会的な問題も見えてくるかもしれません」。

展示風景より

 男性彫刻に見られる様々なパターンには、それぞれの男性(若者、偉人、老人など)に向けられた「こうあるべきだ」という考えが含まれている。その不自由さは、そのまま「男らしさ」の固定概念にもつながっていく。

 鶴見は言う。「そうはいってもジェンダーの問題も重要ではありますが、そればかりをことさら主張してしまうと近寄りがたく思ってしまう人もいるかもしれません。肉体美をさらした筋肉彫刻を楽しむ展覧会があってもいい。なにより面白がって見てもらえたらいいですね」。

編集部

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