「北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美」(2020年2月1日~)が、東京・目黒の東京都庭園美術館で開幕した。
ルネ・ラリック(1860〜1945)はフランス・シャンパーニュ地方で生まれた。パリの国立装飾美術学校で学んだのち、金細工や宝飾のデザイナーとして活躍。20世紀になると、ガラス工芸の分野に進出し、フランスのみならず、アメリカや日本でも高く評価されるようになった。
ラリックをはじめとするアール・デコ様式は、大正から昭和にかけて日本の皇族にも愛されたが、その先鞭をつけたのが朝香宮鳩彦王夫妻だ。パリ滞在時に訪れた「アール・デコ博覧会」(1925)を見物して強い感銘を受けた夫妻により、アール・デコ様式をふんだんに取り入れて建てられたのが、現在の東京都庭園美術館である旧朝香宮邸。正面玄関の扉のガラスレリーフや、大客間の天井灯は、ラリックの手によるものだ。
ラリックとの強いつながりを持つ東京都庭園美術館で開催される本展。日本有数のラリックのコレクションを有する長野・諏訪の北澤美術館の監修のもと、その生涯を知ることができる選りすぐりの作品が集まった。
ラリックの作風として、生活のなかで実用することを意識している点が挙げられる。ラリックがガラス工芸家として活躍した20世紀初頭は、欧米諸国の都市部で電気が普及した時代。本展でも、ラリックが手がけ、実際に朝香宮邸で使われていたランプや天井灯といった作品を見ることができる。
ラリックの花器からも、実用への哲学がうかがえる。ジュエリーの制作をしていたラリックがガラス工芸に本格的に以降した時代の作品からは、アール・ヌーヴォーの面影を残す優美な曲線を装飾として使用しつつ、花を実際に生けたときの見え方を考慮したシルエットが見て取れる。
酒瓶やグラス、鉢や皿などにもラリックは挑戦している。19世紀までに多くのデザインがつくられた分野であるが、ラリックは首が細く胴に広がりをもたせたデカンタや、水滴状の装飾を足に施したグラスなど、斬新なデザインを提案。本展では、テーブルセットとしても展示され、往時の食卓を忍ばせてくれる。
ラリックがガラス工芸家として名をなすきっかけとなったのが、香水商フランソワ・コティとの出会いだった。コティの注文によってラリックが瓶やラベルをデザインした香水は、多くの人気を集めて、その名声を高めた。当時の香水瓶の複雑な装飾からは、気泡が入らないようにガラスにプレスをして紋様をつけるなど、その人気を下支えした高い技術がうかがえる。
2013年に竣工した新館での展示にも注目したい。朝香宮夫妻がパリでアール・デコに出会って以降、大正期の日本には多くのフランス製のガラス工芸作品が紹介された。新館では、ラリックのみならず、ドームやモーリス・マリノなどの作品を、旧皇族のコレクションを中心に展示。日本の近代文化の発展の中で愛されてきたガラス工芸品を、アール・デコ博覧会の映像とともに紹介する。なお、この新館の展示デザインは、建築家の永山祐子が手がけている。
アール・デコ様式の邸宅で、当時のラリックの作品を堪能できる貴重な機会。本館の展示では、カーテンをできるだけ開き、自然光のなかでのガラス工芸の美しさが堪能できるように工夫されている。この貴重な機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。