森美術館新館長・片岡真実が掲げる5つのビジョン

今年1月1日付で森美術館の新館長に就任した片岡真実が1月8日、日本記者クラブで会見を行った。そこで語られた日本の課題と今後のビジョンとは?

 

片岡真実

 「美術館を通して国際貢献したい」。1月1日付で森美術館の新館長に就任した片岡真実は8日に行われた日本記者クラブでの会見でそう語った。

 片岡は1965年愛知県生まれ。ニッセイ基礎研究所都市開発部、東京オペラシティ アートギャラリーのチーフキュレーターを経て、03年より森美術館でのキャリアをスタート。09年にチーフ・キュレーターとなり、18年10月より副館長を兼任。「アイ・ウェイウェイ展─何に因って?」(2009)をはじめ、「会田誠展:天才でごめんなさい 」(2012)、「N・S・ハルシャ展」(2016)、同館で史上2番目の入場者数を記録した「塩田千春展:魂がふるえる」(2019)など数々の展覧会を企画し、目覚ましい活躍を見せてきた。

「塩田千春展:魂がふるえる」展示風景より、《不確かな旅》(2016)

 また森美術館以外でも、第9回光州ビエンナーレ(2012)の共同芸術監督、第21回シドニー・ビエンナーレ(2018)の芸術監督を務め、新たに2020年〜22年の任期で国際美術館会議(CIMAM)の会長にも就任するなど、世界のアートシーンでもその存在感を高めている。

 新館長となってから初の記者会見となったこの日、片岡は「現代アートとは何か?」を説明するところから会見を始めた。

 片岡は「『アートは美しい』という概念は100年以上前(マルセル・デュシャンの《泉》は1917年)に変わっているにも関わらず、なかなか突破できない」としながら、90年位代以降の変化としては「絵画や彫刻などメディアの問題を越え、政治や社会、経済、文化など多様な要素を踏まえた総合的な領域。『世界の縮図』のようなものとなっている」と話す。

会見する片岡真実

 そんな片岡が日本の課題として挙げるのが、国際的なアートシーンでの存在感の相対的な弱さだ。アジア太平洋地域ではシンガポールや香港、中国本土といったエリアに次々と巨大な現代美術館が誕生し、注目を集めている。

2020年12月〜2021年3月に開館予定の「M+香港」のイメージ © M+ Hong Kong

 そうした現状を踏まえ、片岡は森美術館新館長として次の5つのビジョンを掲げる。

・国際的な現代美術館としての立ち位置を維持しつつ、アジア太平洋の現代アートについて積極的に調査研究、展示活動を行う
・グローバルな言語としての現代アートをローカルなコミュニティに接続する
・体験とストーリーの重視
・ダイバーシティの重視
・各地の美術館、ビエンナーレ、様々な教育機関との建設的なパートナーシップ

 「多様な価値観が共存するのが難しい現代社会で、美術館を通して国際貢献したい」と語る片岡は、ひとつの美術館ではできないようなことをより広く、より多様なかたちで実現していく意欲ものぞかせた。CIMAM会長としての手腕も、森美術館での活動にフィードバックされていくだろう。

 世界では様々な女性館長が活躍する時代が訪れている。自身の館長就任については「やっとか」という想いもあったという。「早くそのこと(女性館長)が珍しくない時代になってほしい」と話す片岡。

 日本の現代アートシーンをリードする美術館の館長として、そのディレクションには大きな期待が集まっている。

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