33名のモデルを写した76点の作品が並ぶ本展は、すべてがヌード写真。なぜヌードなのか?その問いに対して篠山はこう答える。
「僕の考えをいちばん直接的に表現できるのはヌード。一糸纏わぬ姿がピタリとくる。ヌードは皆見たい。写真が発明された時からヌードは撮られていた。欲望を満たす一つの表現です。今回の作品は建物が持つエロチシズムをヌードを使って表現したと思ってもらえれば」。
展示室や階段には、その場所で撮影された作品が掲げられ、あたかも「過去」と「現在」が交錯するような感覚を見るものに抱かせる。それは原美術館の特徴である常設作品ですら例外ではない。1階の森村泰昌や2階の宮島達男、奈良美智、須田悦弘、そして3階のジャン・ピエール・レイノーなど5つの作品が各作家の許可のもと、ヌードモデルとコラボレーションしている。
また本展では篠山紀信が80年代に考案した独自の技法「シノラマ」(シノヤマとパノラマを合わせた造語)による巨大作品も発表され、動きの速いポールダンスを3台のカメラで同時に撮影するといった試みもなされた。
「美術館では作品がうやうやしく壁に掲げられて『ありがたく鑑賞しろよ』という感じが気に入らなかった。だから美術館は『写真の死体置き場だ』と思っていた」という篠山。今回、撮った場所で作品を展示するという方法を採用したことで、どのような心境の変化があったのか。「写真は印刷メディアやネットやスマートフォンなど、いろいろなところで見られるが、美術館は写真にとっての新しいメディアなんじゃないかと思い始めた。それは額に入れた観賞用の写真ではだめで、僕のように空間と対峙しながら新しいイメージを湧き起こすような写真ならば絶対に美術館でやるべきと思ったんです」。
場所と作品が一体になった本展。ヌードを通した原美術館と篠山紀信の対話を楽しんでほしい。