2018年10月18日に開館15周年を迎えた東京・六本木の森美術館。この節目を記念し、六本木ヒルズ内のアカデミーヒルズで公開パネル・ディスカッション「拡張する現代美術と変わる美術館」が開催された。
同イベントでは、森美術館インターナショナル・アドバイザリー・コミッティーのメンバーである世界の主要美術館館長のなかから、ラーナ・デヴェンポート(南オーストラリア州立美術館館長)、グレン・ラウリィ(ニューヨーク近代美術館館長)、フランシス・モリス(テート・モダン館長)、高階秀爾(大原美術館館長)と南條史生(森美術館館長)が登壇。片岡真実(森美術館副館長兼チーフ・キュレーター)がモデレーターを務めた。
パネル・ディスカッションの前には、各館長による短いプレゼンテーションが行われ、フランシス・モリスはテート・モダンを舞台に行われたデモの事例を紹介。2011年には、同館評議会員がアイ・ウェイウェイの釈放を巡って「RELEASE AI WEIWEI」のメッセージを打ち出したことなどを挙げ、美術館が社会に置いてより大きな役割を果たすべきであるという考えを示した。
また、グレン・ラウリィは「アメリカを取り巻く状況は難しい」としながら、トランプ大統領が2016年に大統領令で7つの国の人々を入国禁止にした際、それらの国のアーティスト作品を展示したことなどを紹介。「政治色のない美術館はありません。(どの美術館も)内在的には政治的な側面を持っているのです。自分たちのモラルに基づき行動しなければなりません」と語った。
パネル・ディスカッションでは、片岡よりモリスに対して美術館の自己検閲について質問があり、モリスは「内部でコンセンサスが取れないこともある」としながら、「リスクを取らなければいけない活動は、館長が統制します。(テート・モダンは)アーティストやキュレーターが安全にリスクを取れる場所であってほしい」と館長の責任について説明。
そしてもっとも白熱したのが、美術館のコレクションについてだ。
ラウリィは「現代の美術機関にとって、将来は広がり続けます。デジタル時代において、コレクションの考え方を変えなくてはいけません」とコメント。「MoMAは20万点の作品を所有していますが、コレクションへの投資を撤退することも考えています」とコレクションへのネガティブな一面ものぞかせた。
「作品を購入し続けることは現実的ではない。作品のアーカイブ化もしてきましたが、我々はなぜこれをやってきたのか。即答はできませんが、作品収集を継続した場合、どういう結果が生まれるかを考えないのは無責任です」。
いっぽう、モリスもラウリィの考えに同意する。「ラウリィ館長の言う通り、コレクションの今後数ヶ年のあり方を十分に考えなくてはいけません」。また、テートのコレクション活用事例として、コレクションのシェアリングについて言及。「イギリスは小さい国ですが、多くのリソースがロンドンに集中しています。だからナショナルレベルのコレクションを設立し、国中でシェアするシステムを構築しました」。
Google Arts & Cultureなど、世界随一のポータルサイトが世界中の美術館のコレクションをオンライン化するこの時代。いっぽうでメトロポリタン美術館などに代表される美術館も、所蔵品をパブリックドメインとして公開するなど、コレクションに対する動きは流動的になっている。
世界の現代美術シーンを牽引するテート・モダンやMoMAは今後どのような姿勢を打ち出し、またそれは日本の美術館にどのようなインパクトをもたらすだろうか。