長野県松本市の松本市美術館で、長野県にゆかりのある写真家・佐藤大史とフォトグラファー・磯部昭子の二人展「Sustainable World -佐藤大史・磯部昭子 ふたりの視点から-」が開幕した。会期は12月6日まで。また、通期展示として松本市出身の前衛芸術家・草間彌生の特集展示「草間彌生 魂のおきどころ」も開催されており、一部作品が9月に展示替えとなった。双方の企画は同館学芸員の渋田見彰が担当する。まずは「Sustainable World -佐藤大史・磯部昭子 ふたりの視点から-」の展示の様子から紹介したい。
「Sustainable World -佐藤大史・磯部昭子 ふたりの視点から-」
佐藤大史は1985年東京都生まれ。長野県安曇野市在住。日本大学芸術学部写真学科卒業後、写真家白川義員に師事する。北アルプス燕山荘で働いていた時に信州の自然に魅了され、2012年に安曇野市に移住。13年の独立後は、「我々すべてが属している地球」をテーマに、アラスカをはじめとした手つかずの自然を舞台に撮影。2017年エプソンフォトグランプリ三好和義賞受賞。


磯部昭子は10代を松本で過ごし、武蔵野美術大学造形学部映像学科在学中より創作活動を開始。写真作品を多数発表してきた。2000年にフィリップモリス・アートアワード入選、エプソンカラーイメージングコンテスト伊藤俊治審査委員賞を受賞。01年に第18回写真「ひとつぼ展」に入選を果たす。大学卒業後はフリーランスとして活動し、雑誌やCDジャケット、広告等を手がけ、現在は東京を拠点にアートディレクションからの撮影や映像制作なども行なっている。

本展は佐藤、磯部の順に2部構成でそれぞれの作品が展開されている。なお、両者の展示にはセイコーエプソンのプロジェクターとデジタル捺染技術により、写真表現の拡張が目指された。
佐藤は、自身のライフワークとして位置づけているアラスカで撮影した写真群を展示。最初の展示室ではグリズリーやライチョウとともに、アラスカの広大な原野を撮影した作品が天井から吊り下げられている。デジタル捺染技術により両面に印刷されたテキスタイルフォトにより、来場者がアラスカの自然のなかに入り込むような演出となっている。


圧巻なのは、雪原に佇むヒグマと山々、そのあいだにある氷河をひとつの壁面に配した作品だ。佐藤は本作を、ヒグマの大きさと対比しつつ、標高1500メートルの平原、900メートルの氷河、6000メートル越えの雪山という高低差を一挙に見せることで、アラスカの自然のダイナミズムを1枚で伝えることを企図したという。見上げるような本作の前で、来館者も自身の大きさを確かめることになるだろう。

続く展示室では、アラスカの植物や動物、気候や地形を伝える写真や映像を、解説とともに見ることができる。現地の空気に直に触れながら、被写体と対峙した佐藤だからこそ編むことができる言葉が、対象への興味を掻き立ててくれるだろう。

佐藤がレンズを向ける対象は人間にも及ぶ。次の展示室では、厳しい環境と対峙しながらアラスカで生きる人々の姿をとらえた作品を展示。人間もまた、同地で生命のひとつであることが伝わってくる。また、会場の様々な場所に記された佐藤の言葉も印象的だ。カメラを手に現地で感じた素直な言葉が、作品の背景を伝えてくれる。

磯部昭子は、松本市出身のダンサー/モデルであるアオイヤマダを被写体とした作品で広い展示室の壁面を覆った。こちらもデジタル捺染技術によるテキスタイルフォトだ。アオイの実家で家族の協力のもとに制作されたものも織り交ぜられており、松本という土地で育まれた自身のルーツをたどる作品群でもある。

会場の一番奥にあるポートレートは、プロジェクターと組み合わせることで、瞳にコインパーキングでよく見られる「空」「満」のデジタル表示が投影されている。この表示は、磯部が都内での仕事中、駐車場を探す際に着目したアイコンのひとつだ。左右の瞳で点灯する「空」と「満」の表示が交互に入れ替わり、作品への興味が掻き立てられる。

最後の展示室では、中央に椅子やテーブルをはじめとした家具が配置され、その上にはいくつもの皿が吊り下げられている。壁面にはアオイヤマダなどを被写体にした映像が投影され、そこに皿の影がいくつも落ちている。複雑なイメージがひとつの空間に同居する本作について磯部は「四角形のフレームから映像を解放することを意図した」と語っており、多様な映像のあり方を探求していることがわかる。
特集展示「草間彌生 魂のおきどころ」
次に、通年で開催されている特集展示「草間彌生 魂のおきどころ」の様子を紹介したい。

会場に足を踏み入れると、カラフルな花をモチーフにした《チューリップに愛をこめて》(2023)が来場者を迎えるが、この空間に新たに追加されたのが、12点組の平面作品《レッド・ドッツ》(1985)だ。赤地に黒い細かなドットが散りばめられた作品で、2018年に松本市美術館で開催した特別展以来の展示となる。


鏡張りの暗い部屋でゆっくりと回転するシャンデリアが無限に広がる作品は《傷みのシャンデリア》(2011)だ。時折、稲妻のように明るい光が明滅し、様々な光がどこまでも続き、撹拌していく。《鏡の通路》(1996)も、ミラーを有効に活用した作品で、鏡に挟まれた狭い通路と、その前に並べられたソフト・スカルプチャーで構成されている。スカルプチャーは無限に増殖し、終わりが見えない空間に吸い込まれていく。さらに《魂の灯》(2008)は、赤、青、緑といった様々な色のドットが鏡の中で無限に増殖していく作品。いずれも、没入しながら鑑賞できる、本展の大きな魅力となっている作品だ。


草間はまた、植物に着想を得た立体造形も数多く制作した。彫刻作品《命》(2014)もまたそのひとつだが、タイトルからもわかるように、草間は植物的なモチーフと生命を呼応させていたといえる。種苗業を営む家に生まれた草間は、幼い頃から植物の芽吹きを目にしていたという。こうしたルーツを想起させるのも、草間の彫刻の魅力と言っていいだろう。

《天国への梯子》(2012)は、多くの人がイメージする草間作品とはひと味違う印象を受ける。光るはしごの上下には鏡が取りつけられており、上方にも下方にも無限に伸びている。下を覗き込めば地獄に下りていくようでもあり、上を見上げれば天国に上っていくようでもある本作。草間の持っていた死生観を知るヒントが隠されていそうな作品だ。

本展の最後となる展示室では、草間のアイコンとして世界的に知られている、黒い水玉があしらわれた巨大な黄色いかぼちゃの彫刻《大いなる巨大な南瓜》(2017)が出現する。展示室の床も壁も同様に黄色地に黒のドットで彩られており、南瓜を見ながらも、同時に南瓜の内部に入り込むような没入感のある体験が可能だ。

また、松本市美術館は館外にも植物をモチーフとした《幻の華》(2002)が展示されており、街行く人みながパブリック・アートとして作品を楽しむことができる。
地元ゆかりの写真家2人による意欲的な企画展と、世界的な芸術家のコレクション展示。双方を一挙に楽しめる松本市美術館を、ぜひ訪れてみてほしい。







































