フランスのハイジュエリーメゾン、ヴァン クリーフ&アーペルが取り組むモダン/コンテンポラリーダンスのメセナ活動「ダンス リフレクションズ」。 その一環として開催されてきたモダン/コンテンポラリーダンスの祭典「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」フェスティバルが、11月16日まで日本で開催される。一部の公演は「KYOTO EXPERIMENT 2024」のプログラムにも組み込まれ、ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、彩の国さいたま芸術劇場で展開されている。
(ラ)オルド+ローン with マルセイユ国立バレエ団『ルーム・ウィズ・ア・ヴュー』
(ラ)オルドはフランスの電子音楽アーティストであるローンと共同で創作し、マルセイユ国立バレエ団のダンサー28名が出演する『ルーム・ウィズ・ア・ヴュー』を10月5日~6日にロームシアター京都 サウスホールにて上演した。
サウスホールには巨大な採石場を模した美術が構築され、入場時からすでに巨大な音でローンによるダンスミュージックがかかっている。採石場の上部ではレイヴパーティーが開かれており、ダンサーたちがビートに合わせ、一心不乱に踊る。
ポスト・インターネットダンスの表現を標榜する(ラ)オルドは、マリーヌ・ブルッティ、ジョナタン・デュブルワー、アルチュール・アレルの3名によって2013年に結成されたアーティスト3人からなるコレクティヴだ。2019年よりマルセイユ国立バレエ団の芸術監督を務め、動きの中の身体にフォーカスした振付作品や、映画、ビデオインスタレーション、パフォーマンスを創作してきた。
音楽とともに踊り続けていたダンサーたちは、やがて、それぞれ殴り合い、ぶつかり合い、服を破り、ときに性暴力を想起させる激しい動きを始める。さらに採石場の天井や壁が崩れ、魚が空から降ってくる。音楽もどこか宗教音楽を想起させるものへと変わるが、若者たちの激しい動きは続く。
(ラ)オルドのマリーヌ・ブルッティによれば、本作は若者たちから広く支持を得たものの「暴力的である」という批判が多くあったともいう。しかし、こうした評価に対してブルッティは次のように述べている。
「仮に私たちの演目が暴力的だとしたら、それはこの世界が暴力的なのだということです。私たちは事実を組み合わせながら作品を制作しています。私たちの作品に暴力性を見るにせよ、連帯を見るにせよ、それはすべて事実から生まれたことなのです」。
(ラ)オルドの言葉どおり、ダンサーたちは最終的に演奏するローンのもとに集結し始め、その後自らの胸をバスドラムの厚い音に合わせてタップしながら、観客席に向かって声を出しながら踊り続ける。客席までも巻き込むようなエネルギーが会場を支配する。
ブルッティはこうも語る。「私たちは『コラプス』、つまり崩壊、崩れるという言葉をよく使います。まさに、採石場が崩れるという演出にもつながりますが、これはポジティブなエネルギーによって崩れるということです。世界の終わりのようでもありますが、同時に再生のエネルギーが溢れ出す瞬間でもあるのです」。
観客席までも巻き込むような身体と音が、爆発するようなエネルギーを与えてくれる公演となった。
アレッサンドロ・シャッローニ『ラストダンスは私に』
10月5日~6日、京都芸術センターの講堂ではアレッサンドロ・シャッローニの『ラストダンスは私に』が上演された。
シャッローニは2007年以来、舞台芸術と視覚芸術を融合した作品を手掛けてきた。19年のヴェネツィア・ビエンナーレ・ダンツァでは、ダンス分野での生涯功労賞として金獅子賞を受賞。パリのサン・キャトルおよびミラノ・トリエンナーレ・テアトロ2022-2024の提携アーティストにもなっている。
シャッローニが注目したのは、1900年代初頭より男性同士によって踊られてきたイタリアの伝統的なフォークダンス「ポルカ・キナータ」。本作はこの継承をひとつの目的としたプログラムだ。ポルカ・キナータは、ヨーロッパの伝統的なポルカのリズムをベースにした男性同士のダンス。互いに手を取りながらステップを踏むだけでなく、片方を軸とした高速の回転運動が取り入れられていることも特徴だ。現在、消滅の危機に瀕するこのダンスを、シャッローニは京都で披露した。
シャッローニはポルカ・キナータに着目した理由を次のように語っている。「同性が踊るという、通常の社交ダンスではない形態というのはもちろん、ふたりによるダイナミックな回転運動にとても心惹かれました。どうしてこの独創的なダンスが生まれたのか、そこに大きなミステリーを感じたわけです」。
シャッローニはダンスそのものを現代の公演のために大きくアレンジすることはしていない。オリジナルとのもっとも大きな違いは、15分以上の公演として尺を長くしたこと、そして音楽を伝統的なポルカではなくミニマル・ミュージックにしたことだ。
音楽のスタートとともに静かに舞台へと出てきたふたりのダンサーは、ステップを踏みながらスクエア状にステージを周りはじめる。そのステップは細かく正確に刻まれており、靴音が会場に響きわたる。
これらを繰り返すうちにふたりの顔は紅潮し、口もとがゆるみ笑顔を浮かべるようになる。こうしたふたりの変化について、シャッローニは「演出として意図したものではない」と語る。だが、観客の目にはダンスを通してふたりの関係が構築されたかのようにも映り、そこに詩情が生まれていることも事実だろう。
シャッローニは本作の最大のポイントでもある迫力ある回転について、次のように語っている。「ふたりがそれぞれ体重を外に向けてかけることで、遠心力による回転運動が生まれています。どちらかが体重をかけることを止めると、たちまち回転が崩れてしまう。まさに信頼によって成り立つダンスなんです」。
人間同士がお互いの身体を預け合うことで生まれる、ほかにはないオリジナルのダンスが、現代の日本において蘇った瞬間だった。
今回紹介したプログラムはすでに上演済みだが、「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」では、今後もラシッド・ウランダン『Corps extrêmes ─ 身体の極限で』(11月2日〜3日、ロームシアター京都)やマルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラ『カルカサ』(11月15日〜16日、ロームシアター京都)といったプログラムを実施予定だ。
ヴァン クリーフ&アーペルのダンス&カルチャープログラムのディレクターを務めるセルジュ・ローランは今回の日本での開催について次のように語っている。
「日本のコンテンポラリー・ダンスのシーンに新しい風を吹き込み、視野を広げることに貢献できればと思っています。コンテンポラリー・ダンスの持つ自由度から、新しいもの、新しいアプローチを多くの人々に感じてもらえると嬉しいです」。
この秋、「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」のプログラムから目が離せない。