直島初の本格旅館「ろ霞」。アート×宿の新たなかたち

近年注目されている、アートと宿の調和。2022年、直島にオープンした本格旅館「ろ霞」は、数あるアートホテル・旅館と一線を画す感性で、極上の宿泊体験の提供と、若手アーティストの支援を行っている。「囲炉裏」のような場所を目指しているという、同館の魅力を紹介する。

ろ霞のエントランスと庭園

アートと出会う本格旅館

 2022年4月、瀬戸内国際芸術祭の会場である香川県・直島に、同島初の本格旅館としてオープンした「ろ霞」。「若手現代アーティストと出会える宿」をコンセプトに、クリエイティブディレクターで京都芸術大学教授の後藤繁雄をアートプロデューサーに迎え、従来にない現代美術と宿泊施設の関係構築を実践している。

 館内には名和晃平、横田大輔、山本捷平らのコレクションを常設しているほか、注目の若手アーティストの作品を客室にて展示販売する「FEATURED ARTIST」というプログラムを実施。第1弾でフィーチャーし、全11室の客室内で展示した品川亮の描き下ろしシリーズ「新古今和歌集 十二選」は、好評のうちに完売した。展示から販売までの仕組みを成立させているアートホテルは、国内でも希少な存在だろう。

品川亮の「新古今和歌集 十二選」シリーズより、《梅図》(2022)が展示された客室

 第2弾として、現在は山田康平の新作油画11点が、4月20日まで展示販売中。続く第3弾は、ペインティングに写真を転写した作風で知られる岡田佑里奈が登場予定だ。この回では同館の開業1周年を記念し、オンラインでも抽選販売を行うという。以降も、未来を見据えて期待の若手作家にフォーカスする、後藤ならではのキュレーション展開を楽しみにしたい。

現在展示中の山田康平《Untitled》(2022)

囲炉裏のような場所に

 囲炉裏の火を意味する「炉火」と、山間の美しい自然のなかに漂う「朝霞」。「ろ霞」という名に館主の佐々木慎太郎が込めたのは、同館を人々の交流が自然と生まれる囲炉裏のような場にしたいという思いだ。旅館という「ハレ」の場とアートとの親和性は高いゆえ、全国各地、世界各国から訪れる旅行者と地元住民が、「和」のもてなしと非日常的なアート体験を肴に交流を深める光景にも巡り会えるかもしれない。 

 建築は、「自然と人間が美しく調和する里山のような風景」をつくるべく、日本画家・児島慎太郎が建設予定地を見て描いた集落のイメージをもとに設計。意匠には淡路島の土や土佐和紙など、瀬戸内海周辺の自然素材を使用した。全室露天風呂付きの客室には一室ごとに異なる一点ものの素材があしらわれ、ランドスケープデザイナーのYard Worksによる「山祉水明(さんしすいめい)」をコンセプトとした庭園と、オリジナルサウンドを採用した光の演出が宿泊客 を楽しませる。その感性が評価され、2020年には「グッドデザイン賞」と「アジアデザインアワード」のブロンズ賞を受賞した。今後もアートの島・直島にある旅館としての自覚を持ってアートとの向き合い方を発信し、アート界を盛り上げる一助を担う館として施設の価値を高めていくという。 

 なお3月18日から六本木蔦屋書店にて、これからの旅のスタイルを様々なテーマで発信する「大人の深旅フェア」も開催。全館を使った展示や販売、トークイベントなどが企画され、そのなかで「アートと過ごす直島時間」というコーナーが2Fに出現する。直島に関連性の高いアートブックや雑誌のバックナンバー、そして雑誌『美術手帖』の4月号も同コーナーに置かれ「直島旅館 ろ霞」の世界観も紹介される予定だ。

 旅の予定を立てやすくなった今日この頃、自分らしい旅スタイルを発見しに、ぜひチェックしてみては?

ろ霞の庭園に佇む名和晃平《Ether#80》(2022)

編集部

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