ドイツの哲学者ヴァルター・ベンヤミン(1892〜1940)をはじめとする西洋哲学から多くの影響を受け、物事の本質を洞察する哲学者たちが紡ぎ出す⾔葉を絵画表現のプロセスに落とし込み制作するアーティスト・菊地匠。その個展「halōn」が東京・虎ノ門のTHE LOOP GALLERYで開催されている。会期は10⽉4⽇まで。
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菊地は1991年に栃木生まれ。2017年に東京藝術大学⼤学院美術研究科芸術学専攻を修了。その表現技法のひとつに「オフペインティング」がある。オフペインティングとは、⼀度紙にのせた絵具をぬぐいながら描いていく菊地独自の手法で、キャンバス上には「何を描かないほうがいいか」を深く追求する、菊地特有の幽⽞な世界観が形成されている。
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本展タイトルである「halōn」は、古代ギリシャ語で「盤面」の意味。現代イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベン(1942〜)は、「潜勢力(することもしないこともできる能力)」を持つものとしてこの「盤面」に言及している(ジョルジョ・アガンベン『散文のイデア』高桑和巳訳、月曜社、2022、pp.17-19)。菊地は画家として真っ白なパネルを盤面ととらえ、潜勢力の在処を探るように制作している。
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本展の開催にあわせて菊地は以下のように述べている。「真っ⽩な状態のパネルは、何かを描くこともできるし、描かないこともできます。絵描きの仕事は描くことだけではなく『何を描かないほうがいいのか』ということを考えるということでもあります。私は普段から⾊の関係を正確にみるため絵を描くときに下地を作りませんが、今回の制作を通じて、下地を塗らないことは⾊同⼠の関係を⾒るだけでなく「潜勢⼒」を覆い隠さないようにするためでもあるということに気が付きました。紙の地をそのまま残すことでこの『何を描かない⽅がいいのか』という感覚を鋭く持つことができるように感じます」(一部抜粋)。
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