新たな表現を追求する若い才能の発掘を目的とした、35歳以下のクリエイターを対象にするコンペティション「1_WALL」。
その第22回写真部門でグランプリを獲得した伊藤安鐘による個展「眼(まなこ)開きて尚、現(うつつ)を見ず」が、東京・銀座のガーディアン・ガーデンで開催される。会期は3月2日~27日。
伊藤は1996年生まれ、武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。2019年には、再開発の進む渋谷を舞台とするアート・プロジェクト「SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN」で入選。そして第22回写真「1_WALL」では、自身にとっての理想郷を探して週末に撮影したシリーズ「終(週)末ユートピア紀行」でグランプリを獲得した。
セルフポートレートや風景写真を中心に、実在する場所を非現実的に写した同作では、展示を通して、理想郷を探す「私」がそこで待つもうひとりの「私」に出会うという物語が展開。審査員からは、自身の思い描く世界を第三者的な視点で表現する展示の構成力や、週末の撮影やセルフポートレートといった要素をテーマと結びつけ展開する力が高く評価された。
「目の前の景色を留めておきたいから、あるいは記録として写真を撮ると言う人が世の大半であろうが、私はもう一つの世界として収めたいと思っている。要するに先に挙げたような無意識下で作られた世界を撮りたいのである」とステイトメントに記し、現実世界の先に自身の思い描く理想郷を重ねて撮影する伊藤。それは、意識の内側にある自分にしか見られない世界を、写真によって視覚的に明らかにしようとする試みとも言える。
本展では、「私」が探し出した理想郷に深く入り込んで見た世界を、作品を通して表現。写真のほか、映像やペインティングと組み合わせた新作なども取り入れ、その実践を多角的に見ることができる。受賞から約1年後、伊藤が探求してきた「世界」の輪郭に触れてみたい。