昨年初回の開催で、90のギャラリーが集結し、2万8000人以上の来場者を記録したアートフェア「台北當代(タイペイダンダイ)」。その2回目が、1月16日に台北の南港展覧館(TaiNEX)で開幕した。
2007年に香港にアートフェア「ART HK」(後の「アート・バーゼル香港」)を設立し、14年までディレクターを務めたマグナス・レンフリューは、昨年台北に同フェアを設立し、現在共同ディレクターを務めている。開幕にあたり、レンフリューはこうコメントしている。
「初回の台北當代は、大成功を収めることができました。今年はメガギャラリーがふたたびフェアに参加しているほか、Kaikai Kiki Galleryやアクセル・フェルフォールドなど世界有数のギャラリーが加わりました」。
先月のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチ(以下、ABMB)でマウリツィオ・カテランによる「バナナ」を展示したペロタンは今回、エディ・マルティネズの個展を行っている。2018年12月、マルティネズの日本初個展「Blockhead Stacks」がペロタン東京で開催。昨年11月の上海アートウィークでは、マルティネズによる巨大な壁画作品がユズ美術館で展示された。
今回は、マルティネズが19年に制作した「花瓶」をモチーフにした新作シリーズを展開。これらの作品は、フェア初日にすでに完売しており、中国本土の美術館やコレクターが多数購入したという。
昨年8月以来、中国人の本土から台湾への個人観光旅行が制限されているため、今回のフェアでは、中国本土からのコレクターの人数が激減。しかし、台北當代の出展ギャラリーには楽観的な空気が漂っている。
今年初出展となる、ベルギーと香港に拠点を置くアクセル・フェルフォールドは、吉原治良や前川強、元永定正など具体美術協会の代表的な作家と、ロマン・オパルカやピエロ・ドラツィオなどグループ・ゼロの作家による作品を展示。同ギャラリーの香港ディレクターはこう話す。「台湾には、親世代からアートを収集しているコレクターがたくさんいます。また、台湾のオークション市場は非常に成熟しており、台湾のコレクターたちはアートを知ろうという気質が強い」。
デイヴィッド・ツヴィルナー香港のディレクターも、「台湾には、アートを収集する長い歴史があります。とくに台湾のコレクターたちは、伝統的であれコンテンポラリーであれ、絵画に詳しい」と語っている。同ギャラリーのセールでは、台湾のコレクターが多くの作品を購入したという。ベルギーの画家リュック・タイマンスの絵画《Instant》(2019)や、19年のターナー賞の受賞作家オスカー・ムリーリョの絵画《Untitled》(2019)は、それぞれ150万ドル(約1億6500万円)と38万ドル(約4200万円)の価格で台湾のコレクターによって購入された。
ハウザー&ワースでは初日、ラッシード・ジョンソンの絵画《Untitled Escape Collage》(2019)やジェニー・ホルツァーの絵画《Shifting to Softer Targets》(2014-15)が、47万5000ドル(約5200万円)と35万ドル(約3900万円)の価格でアジアの財団によって購入された。同ギャラリーのディレクターは今回のブースについてこう話す。「ブースのキュレーションを意識しました。ハウザー&ワースの代表的な作家による、コンセプチュアルかつ科学技術などのテーマを表現する作品を展示することで、絵画における新しい可能性を探りたいのです」。
先月、ABMBの開幕初日に約1200万ドル(約13億円)の総売上を達成したタダエス・ロパックだが、今回初日での作品購入はなかったという(16日17時時点)。しかし同ギャラリーのディレクターは気に留めていないようだ。「昨年の台北當代の初日にも、大きな作品の購入はなかった。作品の売買はほとんど土日にあり、コレクターたちはフェア最終日に購入に至るケースが多かったですから」。
西洋の巨大ギャラリーが集まるいっぽう、マグナス・レンフリューは、「台北當代がアジアで開催されるフェアですので、アジアのギャラリーを精力的に紹介してサポートしたい」と話す。
今回は、初出展のSCAI THE BATHHOUSEやKaikai Kiki Galleryに加え、日本のオオタファインアーツ、小山登美夫ギャラリー、台湾のティナ・ケン・ギャラリー、大未来林舎画廊など、アジアのギャラリーも強い存在感を示した。
会場の入口付近には、オオタファインアーツのブースがある。ここでは、草間彌生のようなスターアーティストの作品が展示されているほか、昨年東京で個展を開催したマリア・ファーラの絵画や、見附正康や桑田卓郎、新里明士など若手作家による工芸品も紹介。初日には、複数の作品が台湾のコレクターによって予約されたという。ギャラリーの関係者は、「前回は落ち着いた来場者が目立ちましたが、今年はワクワクしているような人が多い」と語っている。
昨年、共同ディレクターとして台北當代のチークに加わった、中国のバイリンガル美術誌『LEAP』の元編集長・キュレーターのロビン・ペッカムはこう分析する。「台湾は日本に深く影響されており、文化的にも相似しているため、日本のギャラリーは台湾で広く歓迎されています。とくに台湾のコレクターは、日本のマンガやアニメのようなキャラクターをモチーフにした作品が好きですね」。
Kaikai Kiki Galleryでは、Mr.やMADSAKI、井田幸昌など日本でも人気の高い作家を紹介。ブースには人だかりができていた。SCAI THE BATHHOUSEでは、現在台湾・台中の国立台湾美術館で作品を展示している李禹煥をはじめ、宮島達男や名和晃平の作品を紹介。同ギャラリーの関係者は、「台湾の観客はとても熱心であり、とくに日本のアーティストに興味を示してくれます」とコメントしている。
ニューヨークと北京に拠点を置くチェンバーズファインアートは、アイ・ウェイウェイの個展を開催。世界の人権や難民問題をテーマにした作品を精力的に制作しているアイは、昨年6月以来香港で行われてきた一連の大規模なデモから着想を得た、新しい彫刻シリーズを発表。香港の抗議者がデモで使っている傘やバリケードをモチーフにしたこれらの作品は、国家間の境界を超越し、人類全体にとって共通した普遍的な価値を問いかけている。
初日のギャラリーのパフォーマンスについてペッカムは、「昨年と比べて今年は、作品売買のペースが上がってきました」と語っている。「会場の通路を拡張したことで、ギャラリーはよりいい体験を提供することができ、とても満足しているようです。来年に向けて、さらに改善して頑張っていきたいと思います」。