「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017」(以下AAIC)は、全国から分野・技法・手法を問わない作品企画を公募した、3年に一度行われる現代美術の公募展。4.8×4.8×3.6メートルのキューブを”無限の小宇宙”に見立て、そのなかでアーティストが作品を発表するという、これまでにない試みだ。第1回の今年は、「『身体のゆくえ』を解釈・表現する」をテーマに募集が行われ、国内外から790点の応募作品があり、15組の入選作家が決定した。審査員はO JUN、十一代 大樋長左衛門、高橋源一郎、田中泯、中原浩大、三輪眞弘、鷲田清一が務めており、そのユニークな顔ぶれも話題を集めた。
岐阜県は、戦後間もない1946年から「県展」を継続して開催してきたが、2015年の第69回をもって、その幕が閉じられた。AAICは、その後継ともいうべき取り組みとなる。
「アートは見ればわかる」はもう古い?
2月12日に行われたプレイベントでは、4月から開催される作品展に先立ち、アートプロデューサーとして数々の企画展に携わってきた山口裕美と岐阜県美術館館長の日比野克彦が登壇。
山口は「アートを応援する」という立場から、「現代アートの魅力」として、自分が生きている時代を総括して表現する「同時代性」、少し先の時代の空気を提示する「未来性」、見る側に物差しのない世界での判断力と想像力を求める「判断と同時に想像力を鍛える」の3点を提示。
アートの鑑賞法について、「アートは見ればわかる、は古い!」として、ただ見るだけではなく、よく観察すること、自分の判断で考えること、そして何よりも同じ時代を生きるアーティストたちと対話することの重要性を示した。
AAICでアートの土壌を育む
ヴェネチア・ビエンナーレをはじめ、数々の国際展に参加してきた経験を持つ日比野克彦は、これまでの自身の現地制作での経験を踏まえ、次のように語る。
「今回のAAICには、制作を手助けするファクトリーチームもあります。このアワードの一番の特徴は、ホワイトキューブありきで、ただ搬入してもらうというのではなく、(展覧会を)一緒につくっていこうという意識が高いこと。どこにもない形式のものを発信していこうとしている。アーティストは一人で作品をつくるのが基本だけど、それは難しい。話し相手などの外的な刺激がないと動きが始まらない。自分の周辺との語らいの中から(作品は)生まれてくるんです。そういうアートシーンをつくりだす土壌を、主催者側が作家とともに育んでいこうという面が大きい。AAICをきっかけに、アートを支援してくれる人たちを多く育てていきたいですね」。
このアートシーンの育成という点について山口は、「潜在的に役に立ちたいという人は多いので、会場を撮影可能にしてSNSにアップしてもらうなどをしていかないといけない。そこから参加意識を持ってもらうことが大事」と、若い世代の傾向を踏まえたアピール方法を提案する。
「岐阜県立森林文化アカデミー」や「国際たくみアカデミー」など、専門的な知識を育む公立施設があり、また美濃和紙や飛騨春慶塗、美濃焼などの伝統工芸が根づく岐阜県。これから本格的に制作が始まるキューブ内の作品について、日比野は「専門的なスキルと一緒になってつくっていく。それによって伝統技術の進化や、新しい産業が生まれることにも期待したいですね」と、行政の枠を超えたコラボレーションに言及する場面も見られた。
AAICを楽しむ秘訣
本展示を楽しむ秘訣を聞かれると山口は「本人たちのインタビューがウェブサイトに載っています。まずはこれを見てから来てほしいですね。また、つくり手が生きているので、コミュニケーションをしてほしいと思います」と回答。また、日比野はキューブという共通項を挙げ、「キューブ同士で見比べることができる。それによって自分の嗜好性がわかると思うんです。『絵画』や『彫刻』という領域で見るのではなくて、どれに自分の心が動くかどうかをとっかかりにしてもらえたら」と述べた。
古くは円空や茶人・古田織部、あるいは日本画家・前田青邨、洋画家・熊谷守一などを輩出し、現在はメディア文化の教育に特化した情報科学芸術大学院大学[IAMAS]が拠点を置くなど、もともと文化的な土壌が色濃い岐阜。日本の真ん中に位置するこの場所から、新たに発信される 「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017」は、アートの世界にどのようなインパクトを与えるだろうか。