ミクロとマクロに広がるペン画の宇宙。池田学の大規模個展が金沢21世紀美術館で開幕!

緻密な線で壮大な世界を描き出す画家、池田学。金沢21世紀美術館にて、4月8日から7月9日まで、大規模個展「池田学展 The Pen −凝縮の宇宙−」が開催される。代表作が一堂に会し、画業の全貌が紹介される本展。池田のコメントとともに、内覧会のレポートをお届けする。

池田学。金沢21世紀美術館での個展会場、新作《誕生》の前にて

約20年間の画業を一望

展示風景。手前は《存在》(2004)、奥は《再生》(2001)

 池田学(1973年佐賀県生まれ)は、1ミリにも満たないペンの線による、現実を凌駕するかのような壮大な世界を描いた絵画で知られる。国内外で高い評価を得ているアーティストだ。

 「超絶技巧」とも謳われる細部の緻密な描写、そして画面全体の構成やスケール感あふれる空間描写は、ミクロとマクロの両方に広がる宇宙をも思わせ、見る者を感嘆させる。

 本展は約120点に及ぶほぼすべての作品を展示し、画業の全貌を紹介する、日本初の大規模個展。金沢に先駆けて1〜3月に開催した佐賀県立美術館では、池田の出身地であることもあり大きな反響を呼び、同館の過去最高の動員記録となる9万5740人が来場した(金沢の後、本展は東京へ巡回予定。日本橋高島屋にて9月27日~10月9日)。

3年間を費やした新作《誕生》

 これまでも現代作家などの意欲的な展覧会を開催してきた金沢21世紀美術館だが、絵画に特化した展覧会は、意外なことに2004年の開館以来、今回が初めてだという。

《誕生》(2013-16)展示風景

 本展は6つ展示室に、ほぼ年代順に作品が並ぶ。なかでも見どころは、構想2年、制作に3年を費やして描かれた、3×4メートルの大きな新作《誕生》(2013-16)だ。普段は巨大なインスタレーションや立体作品なども展示される、館内でもっとも広い空間に、この新作は展示された。池田は新作《誕生》を前に、このように語る。

 「2月に展示準備のため、金沢21世紀美術館を見にきたのですが、そのときは展示室の広さに不安を感じました。絵をかけて空間がもつのかな?って。でも実際に絵を展示してみると、この空間の広さに負けていないと思えた。とても気持ちのいい展示になったし、自信につながりました。同じ絵でも佐賀県立美術館で見たときとはまた違って見え、絵にとって空間のおよぼす影響の大きさを実感しましたね。このような贅沢な空間で展示ができて、とても光栄に思っています」。

 《誕生》は、東日本大震災を契機に構想された作品。2013年よりアメリカ、ウィスコンシン州マディソンにあるチェゼン美術館にて滞在制作を行い、3年をかけて完成させた。世界のどこでもおこりうる災害や、そこからの復興への願い、生命の生と死のサイクルなどが、様々なエピソードの集積とともに描かれている。何度見ても、どこを見ても新たな発見がある、これまでの集大成といえる大作だ。

《誕生》(2013-16)展示風景

壮大な世界観から、ユーモアあふれる細部まで

 本展にはほかにも、初期のモノクロームの作品から、動物を描いたシリーズ、人気のある代表作《興亡史》(2006)や《予兆》(2008)など、見応えがある作品が並ぶ。壮大な世界観に思いを馳せたり、細部に描かれた遊び心あふれる描写にクスッと笑ったり、様々な角度から作品を楽しむことができるはずだ。

 「今回の展示全体を見て、自分はこんなにたくさんの絵を描いてきたんだ、と改めて驚きました。僕は1作品ずつの制作に時間がかかるので、作品の数が少ないと言われてきたし、それはその通りなんですが、実際に美術館に集めてみると、展示室に入りきらないんじゃないかと思うほど、作品があった」(池田)。

 なお、現在発売中の『美術手帖』4月号では、約100ページにわたり池田学を大特集。制作終盤に右肩脱臼という大ケガを負うなど、様々な試練を乗り越えた新作《誕生》完成まで道のりや、池田作品に大きな影響を与える「山」「釣り」「旅」「スタジオジブリ」「ペン」などのキーワードについても語っている。また《誕生》の特別ポスターも封入。本展とあわせて読めば、池田作品の深遠な面白さが、より深く楽しく見えてくるはずだ。

編集部

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