今号は「池田学」特集をお送りします。池田の地元である佐賀の県立美術館で1月20日に開幕した「池田学展 The Pen −凝縮の宇宙−」が大きな話題となっている。報道によれば、3月3日にはオープンから6週間で入場者が5万人を突破、週末には1日3000人を超えるフィーバーぶりだ。地元の新聞社、テレビ局が主催・後援にずらりと名を連ね、記事やニュース番組を通じてスター誕生を全面的にバックアップしていることも大きい。
そのうえで、今年43歳を迎える池田学はこれまでギャラリーの個展やグループ展が大半で作品をまとまったかたちで見せる機会がほとんどなかった。にもかかわらず、代表作を集めて画業の全貌を初めて明らかにしたこの展覧会が、これだけの前評判と開催後の評価の高さを得たのは驚くべきことだろう。かくいう私も《方舟》(2005)、《興亡史》(2006)、《予兆》(2008)こそ実見したことがあったが、その他の作品については画集等を通じて知るのみだった。ある意味、まだ未知数ともいえる作家の特集を企画しようと決断したのは、今回の新作《誕生》について、その制作状況やエピソードを見聞きするかぎり、この作品が池田にとってもいまのアートシーンにとっても金字塔となりうる、という妙な確信のようなものを抱いたからだ。
《誕生》の内容や評価については、特集での池田のインタビューや自作解説を読んでもらい、実際に作品を見ていただくほかはない。けれども私個人は、(かなり長い時間絵の前に立ったが)この《誕生》という絵がなんなのか、その比類のなさは実感しながらも、まだ核心をつかみきれずにいるというのが正直なところだ。
いっぽう、池田本人はとても真っ直ぐで屈託のない好青年そのもので、家族に囲まれ、自然のなかで汗を流し、コツコツとペンで描き進めていく姿勢は健全そのものに見える。《誕生》の制作期間の3年3か月のあいだには様々な葛藤や苦しみもあっただろうが、その一つひとつも糧にして作品に昇華していっている。実はあまりいないタイプのアーティストなのかもしれない。今回の個展やこの特集をきっかけにして、一見明快にみえるが、実はまだよくわからない作家・池田学の謎に挑んでみてほしい。
編集長 岩渕貞哉