国が認定した日本初のIR「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備計画」。この広報資料が物議を醸している。
このIRはオリックス株式会社と合同会社日本MGMリゾーツとが共同投資する大阪IR株式会社が推進するもの。この資料のなかで、送客施設「関西ツーリズムセンター」のイメージ図に奈良美智《あおもり犬》と酷似した作品が配置されている。
同作は奈良の代表的な立体作品のひとつで、青森県立美術館に設置されているもの。約8.5メートル、横幅約6.7メートルの真っ白な作品は、同館を代表する作品として親しまれている。
奈良は自身のTwitterで、「大きな犬の自作イメージが出てくるのだが、使用を許可したこともない、というか許可自体を求められたこともない。法律に詳しい方に聞いてみよう。そして、カジノとか、自分は基本的に好きではないです。」とコメント。掲載許可がなかったことを明らかにしている。
また奈良作品とは別に、村上隆の「お花」をモチーフにした壁画のような画像も広報資料に使用されていることがわかっている。
大きな犬の自作イメージが出てくるのだが、使用を許可したこともない、というか許可自体を求められたこともない。法律に詳しい方に聞いてみよう。そして、カジノとか、自分は基本的に好きではないです。
— yoshitomo nara / 奈良美智 (@michinara3) April 14, 2023
大阪の「カジノ含むIR」計画 認定の方向で調整 政府 | NHK https://t.co/50VH0qJzDi
朝日新聞によると、これらのイメージ図や動画はオリックスおよび米MGMリゾーツ・インターナショナルが制作会社に発注し、大阪府市に提供したもので、事業者側からは利用許諾が完了していたとの説明を受けていたという。
Art Lawに詳しい木村剛大弁護士は、次のように指摘する。
「公共空間に設置されたパブリック・アートについては『屋外恒常設置』と呼ばれる著作権の効力を制限する規定がある(著作権法46条)。この規定では、作品をメインにしたポストカードの販売など専ら複製物の販売を目的とする複製などを自由利用の例外としているが、著作物を原則として自由利用することができる。しかし、著作物の利用方法が多様化しているため、屋外恒常設置の規定も時代に合わなくなってきているのではないだろうか。
いっぽうで、この規定で制限されるのは著作権であり、著作者の人格的な利益を保護する著作者人格権には別途の配慮が必要になる。《あおもり犬》は手足が地中に埋まっており、これは三内丸山遺跡に隣接し、その発掘現場から着想を得て設計された青森県立美術館での展示を踏まえて制作された作品だろう。そうすると、その作品を関係のない場所に設置するイメージを作成することは作品の改変にあたり、著作者人格権のうち『同一性保持権』との関係で問題になるおそれがある」。