現代美術は、著作権法が想定していなかった様々な新しい問題を提示することがある。アートの改変というテーマもそのひとつだ。また、このテーマは、作品の所有権と著作権が交錯するために理解が難しい分野でもある。
このシリーズでは、頭の整理のためにアートの改変を大きく「物理的改変」と「概念的改変」に分類し、それぞれ事例を紹介する。今回は、物理的改変について解説していこう。この物理的改変は、さらに「回復不能の改変」と「回復可能な改変」に分けられる。
自分の創作した作品を改変するのは同一性保持権との関係では問題ありませんよね?
アート作品そのものを物理的に改変するケースを「回復不能の改変」と呼ぶことにしよう。
まず、アーティストには、著作者人格権のひとつとして、同一性保持権がある。つまり、アーティストは「その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」と著作権法で保護されているのだ(*1)。
確かに同一性保持権との関係では自分で改変しているので問題はない。しかし、自分の所有物でなければ、他人の所有権の侵害には変わりないので、くれぐれもご留意を。
多くの人が思い浮かべる事例は、バンクシーの《愛はゴミ箱の中に》だろう。サザビーズのオークションで、バンクシーが額に仕込んだシュレッダーにより落札されたバンクシー《風船と少女》が切り刻まれた。これによって作品は《愛はゴミ箱の中に》と改称され、作品の価値は上がり、約1.5億円で落札していたヨーロッパ人の女性コレクターも作品の購入を受け入れたと言われている(*2)。
このようなことが起こるのは、現代美術の世界くらいではないだろうか。