上海のアートフェア「ART021」が急遽閉幕。その理由とは?

11月10日に第10回目の開催を迎えた、中国を代表するアートフェアのひとつ「ART021」が、開催2日目にして中止となった。「ゼロコロナ」政策を堅持する中国で、アートフェアや美術展を開催するリスクが高まりつつある。

文=金澤韻

2022年のART021の様子 出典=共同創設者バオ・イーフェンのWeChatより

 2022年11月11日、中国を代表するアートフェアのひとつ「ART021」が、開催2日目にして中止となった。

 ART021は、「ウェストバンド・アート・アンド・デザイン」と並んで、上海アートウィークのメインとなる大規模イベントである。今回は19ヶ国36都市から134のギャラリーが出展、昨年(14ヶ国29都市から139のギャラリー)とほぼ同じ規模で開幕した。また今年はART021にとって開催10年目という節目の年でもあった。

 筆者は開催2日目、11月11日の午後4時から会場へ赴く予定であった(*1)。しかしその少し前にWeChatのモーメンツで、会場がクローズされた旨を友人たちのポストにより知った。真偽を確かめるため同伴者が知り合いの出展者のひとりにメッセージを送ったところ、来場者に陽性者が出たため、来場者、出展者にかかわらず全員が会場の外へ出され、現在は誰も入れない状態だ、という返事だった。

2022年のART021の様子 出典=共同創設者バオ・イーフェンのWeChatより

 そしてその日の夜23時14分、ART021の公式チャンネルより、ART021はこのまま開催を中止するとのアナウンスがあった。内容は次の通りである。

 「現在の疫病(注:新型コロナウイルス感染症)の予防とコントロールの情勢を鑑み、来場者の健康と公衆衛生の安全を確保するため、多方面と協議した結果、今回のART021を中止することとしました。この中止に際して多くのみなさまにご不便をおかけすることとなり、心からお詫び申し上げます。また、私たちは今後の対応に全力を尽くしてまいります」。

 上海では、2500万人が自宅またはマンション街区内に閉じ込められた今年3月〜5月の大規模ロックダウンからPCR検査が常態化しており、基本的に72時間以内のPCR検査陰性証明を携帯していなければ、建物に入ることも公共交通機関の利用もできない。さらにART021などの大型イベントでは24時間以内の陰性証明携帯が義務付けられていた(*2)。この厳重な管理体制のためか、開催中止は誰かの陰謀、あるいは政治的な交渉の失敗では、などの噂も一時ささやかれた。しかし2022年11月12日8時5分上海市の公式発表により、上海市松江区九里亭街道△(さんずいに「来」)寅路106弄に住む43歳の男性が無症状感染者として発見され、男性の立ち寄った場所にはART021会場である上海展覧中心の1階と2階が含まれていた、ということが明らかになった。また男性の濃厚接触者として255人が集中隔離施設へ送られたこともこの発表に記載されていた(*3)。

2022年のART021の様子 出典=共同創設者バオ・イーフェンのWeChatより

 出展者たちによると、会場からどのように作品を撤収するのかについては、この記事を書いている11月13日朝の時点で、まだ主催者のアナウンスを待っている状態とのことである。

 この出来事が、突発的なものとして受け止められるか、あるいは「ゼロコロナ」政策を堅持する中国の潜在的なリスクとして受け止められるかを注視している。筆者のWeChatのモーメンツは、中止のアナウンスのあと、ART021を応援し、来年に期待するという前向きなポストにあふれた。今回に限らず、中国の人々はいつも総じてポジティブであるか、ポジティブであろうとする。 

 しかし、一般にアートフェアといえば相応の費用をかけて参加するもので、それが会期途中で突如としてクローズするリスクを含むとなると、来年以降、とくに海外ギャラリーは出展に消極的になっても不思議ではない。また、フェア会場を液体噴霧器により消毒する様子も報道されている。これが、中国で主に使用される、次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする消毒液だとしたら、金属を腐食させる可能性がある。また少なくとも水分は、紙、木、布、繊維など、作品の素材に悪影響を与えるはずだ。このことがアートフェアのみならず、美術館等における美術品の展示自体を抑制する懸念もある。筆者としては、現行のゼロコロナ政策と、アートフェアや美術展が、まさに相入れないということを目の前に突きつけられたかたちになった。美術界は中国の方針とどのように調整していけるのか、美術品を、美術の現場をどうやったら守っていけるのか、今後の動きに注目したい。

 追記:この記事を準備中の11月13日9:54にウェストバンド・アート・アンド・デザインも開催を中止するとのアナウンスを発した。予定では今日が最終日だった。アナウンスの内容はほぼART021と同じである。

*1──ART021は入場に際してタイムスロットを予約するシステムになっていた。
*2──2022年11月11日現在、上海の防疫措置は厳格であり、常態化PCR検査以外に、海外からの渡航者は基本ホテル隔離7日と自宅隔離3日、中国他都市から上海に来る場合には直前3日3回のPCR検査義務などがある。ART021入場時にはそれら陰性証明・行動歴の証明に、場所コードと行程カード、2種類のQRコードの提示が必要であった。
*3──上海市の公式発表は毎日行われており、前日に判明した陽性者の性別、年齢、居住地域、立ち寄った場所、封鎖区域などが伝えられる。

編集部

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