2021.3.18

アーティスト・柳幸典が京都の旅館「すみや亀峰菴」をリノベーション。200平米のロビー&ギャラリーも

1955年に京都府亀岡市に創業した旅館「すみや亀峰菴」が、アーティスト・柳幸典によって大幅にリニューアル。アートに軸を置いた旅館となる。

「すみや亀峰菴」の茅葺き門
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 年間およそ2万人が訪れるという京都府亀岡市の旅館「すみや亀峰菴(きほうあん)」。その空間が、アーティスト・柳幸典に手によって大幅に生まれ変わる。

 すみや亀峰菴が創業したのは半世紀以上前の1955年のこと。ジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻や松田優作なども宿泊した老舗旅館だ。そのリノベーションを手がける柳は、1993年に第45回ヴェネチア・ビエンナーレのアペルト部門を日本人で初めて受賞したほか、数多くの国際展に参加。2000年のホイットニー・バイアニュアルでは、ニューヨーク在住の作家として外国人で初めて選ばれるなど、国際的な評価も高い。また08年には、明治の近代産業遺構と昭和の三島由紀夫のメッセージに自然エネルギーの技術を融合させた美術館「犬島精錬所美術館」を瀬戸内海の犬島に完成させたことでも知られている。

柳幸典 Photo by Hideyo Fukuda

 今回のリノベーションは2期に分けて行われ、4月26日には200平米のロビー&ギャラリーが完成。ロビーのエントランスには、柳とのコラボレーションの象徴として、国旗や紙幣などの砂絵を蟻に掘り崩させる「アント・ファーム」シリーズのひとつで、葛飾北斎の《神奈川沖浪裏》を引用した作品《Study for Japanese Art -Hokusai-》が常設展示される。

 その後、柳が手がけた犬島精練所美術館の鉄の回廊を想起させるような140平米の特別宿泊室が今秋に完成する予定だ。

柳によるすみや亀峰菴リノベーションのアイデアスケッチ

 すみや亀峰菴代表取締役社長の山田智は、ロビーのリニューアルが長年の経営課題だったとしつつ、柳にリノベーションを託した理由を次のようにコメントしている。「すみや亀峰菴は旅館業に対する固定観念に縛られず、常に進化を続け、新しさや意外性を取り込みながら、旅館の在り方やお客様に提供できる価値とは何かを追求してきました。『旅館だから古風な空間』と安直に考えずに、旅館と現代アートがコラボレーションすることで、これからの旅館・新たな価値が生まれることを期待したのです」。

 近年、アートを取り入れた宿泊施設は増加傾向にあるが、同旅館のアートディレクターを務める島林秀行は「現代美術家が『旅館』で作品展示するだけではなく、『旅館』の空間そのものを構想し、実際につくりあげるケースは珍しいと言えます。前例がそうないなか、すみや亀峰菴は、現代アートと伝統を高度に共存させた空間づくりに果敢に取り組む姿勢を持っており、今後、『旅館×現代アート』という領域での先駆的存在となっていくと考えられます」と期待を示す。