浮上したル・コルビュジエの「アジール・フロッタン」、23年に全面公開へ。復元費用の募金もスタート

ル・コルビュジエがリノベーションを手がけ、作品のなかで唯一の「動く」建築としても知られる「アジール・フロッタン(浮かぶ避難所)」が昨年セーヌ川から引き上げられた。いまも復元作業が続くその公開時期が、2023年前半となることが明らかにされた。

セーヌ川に浮かぶアジール・フロッタン (C) スターリン・エルメンドルフ撮影

 1929年にル・コルビュジエがリノベーションし、その作品のなかで唯一の「動く」建築としても知られる「アジール・フロッタン(浮かぶ避難所)」が、2023年に復元を終えて全面公開されることが明らかにされた。

 「アジール・フロッタン」は、もともと第一次世界大戦下、ロンドンからの石炭の輸送を行うことを目的として建造されたコンクリート船。1929年には第一次世界大戦後のパリ市内にいた難民の避難所としてル・コルビュジエと弟子の建築家・前川國男の手によってリノベーションされた歴史を持つ。

 船内に、難民のための128のベッドのほか、シャワー・トイレ・洗面台といった水回りの機能、電気や暖房、36席の食堂と調理室も用意されていた「アジール・フロッタン」は、95年まで様々な難民のために使われ続けた。しかしその後は難民の減少によって使用されなくなり、老朽化によって度々廃船の危機にさらされてきた。そこで2006年、日仏共同の修復プロジェクトがスタート。08年には遠藤秀平(建築家/神戸大学教授/一般社団法人 日本建築設計学会 ル・コルビュジエの船再生委員会委員長)による工事用シェルターの設計、17年には日本企業による桟橋の寄贈などが進められた。

 事態が一転したのは2018年。2月に発生したパリ・セーヌ川の増水によって「アジール・フロッタン」が沈没。その事態に対応するため、19年に国際文化会館が助成・協力を決定し、日本建築設計学会が「アジール・フロッタン復活プロジェクト」をスタートさせ、昨年10月19日に引き上げが完了した。

 3月12日に国際文化会館で行われた記者会見で遠藤は、「アジール・フロッタン」を2022年前半から23年前半にかけ、順次公開していくことを発表。また復元後のプランも明らかにされ、同船内の船首部分は「復元スペース」としてそのまま残し、中心部はレセプションに、後方部はイベントスペースとして貸し出し、その収益を運営費として確保するという。

 なお同船は昨年、本来の所有会社がパリの裁判所による判決で解散。8月には所有権が日本建築設計学会に移っており、現在も同学会が所有している。いまなお文化財としての補修と復元が続く「アジール・フロッタン」。同学会では、今後も多くの資金が必要となるとし、修復と復元、運営資金を含めた3億円を目標に募金もスタートさせた。

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