2020.7.29

「国の分野横断統合ポータル」ジャパンサーチ、全国美術館会議が「つなぎ役」として参加。その意義とは?

今年8月に正式公開が予定されている、「国の分野横断統合ポータル」ジャパンサーチ。ここに全国美術館会議が「つなぎ役」として参加することが発表された。その背景にあるもの、そして意義とは?

「ジャパンサーチ(β版)」ウェブサイトより
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 国が2020年8月25日に正式公開を予定している分野横断統合ポータルサイト「ジャパンサーチ」をご存知だろか?

 ジャパンサーチは、書籍、文化財、メディア芸術など、様々な分野のデジタルアーカイブと連携して、日本が保有する多様なコンテンツのメタデータをまとめて検索できるサイト。運営は国立国会図書館が行っており、6月11日現在で、文化財や美術・映画、学術資産等の18連携機関71データベースと連携し、約1990万件のデータが検索可能となっている。

 このサイトに参画することになったのが、全国美術館会議(以下、全美)だ。

 1952年に設立された全美は、正会員394館(国立10館、公立251館、私立133館)が会員として登録する日本最大の美術館組織。総会や総会記念フォーラム、講演会、学芸員研修会、研究部会等を毎年開催し、その成果を共有している。

全国美術館会議が事務局を置く国立西洋美術館

 その全美が今年7月、国立国会図書館からの依頼を受け、ジャパンサーチに対し所蔵作品データを提供する美術館を全国的に取りまとめる役割を担う「つなぎ役」となった。これは何を意味するのだろうか?

 まず大きな利点は、全美正会員である美術館が、全美を通じてジャパンサーチに参加することが可能になったということだ。これまでのジャパンサーチでは、美術作品データを提供する連携機関は文化庁・国立情報学研究所、独立行政法人国立文化財機構、独立行政法人国立美術館、日本写真保存センター、立命館大学アート・リサーチセンター等に限定されており、利用可能な美術作品データも限られたものとなっていた。

 しかし、そこに全美が「つなぎ役」として入ることで、日本全国の美術館がそれぞれ保有する収蔵作品情報を、ジャパンサーチに提供することができるようになったのだ。全美では、ウェブサイト上でジャパンサーチ参加館の募集を開始しており、7月28日には、愛知県美術館と東京富士美術館の2館が早くもジャパンサーチへのデータ提供を始めている。

愛知県美術館が所蔵するクリムトの《人生は戦いなり(黄金の騎士)》はこのように表示される

 今回の新たな枠組みについて、東京富士美術館学芸員で全美情報・資料研究部会幹事の鴨木年泰は次のように話す。

 「今回、県立・私立の美術館の参加例ができたので、今後関心のある美術館の参加が増えることが期待できると思います。他方、ジャパンサーチ上では、掲載するコンテンツを利用するための権利表示が細かく設定でき、教育目的、非商用、商用などユーザーによる作品画像の利用の便を図ることができます。愛知県美術館は以前所蔵作品画像を原則自由に利用できるようにしたことが話題になりましたが、今回東京富士美術館でもジャパンサーチへの掲載に合わせ、HP掲載の所蔵作品画像について自由に利用可とする運用を始めることにいたしました。今後国内の美術館の現場でも所蔵作品画像の取り扱いについての議論・意識変革が進むことが期待できるのではないかと考えています」。

東京富士美術館が所蔵するマネの《散歩》

 また国立西洋美術館学芸課情報資料室長で、同じく全美情報・資料研究部会幹事を務める川口雅子は「全国各地にある美術品が一括で検索可能になる、これは誰にとっても大きな願いだと思います」としつつ、次のように今後への期待を語る。

 「この問題に取り組む事業は従来からありましたが、美術品の所在調査ツールを海外のキュレーターに聞かれたときなど、これといって示せるものがない状況でした。その意味でジャパンサーチには注目しています。全国美術館会議がつなぎ役となったことで美術館の参加拡大の可能性は広がりました。個々にデータを公開してきた組織が集まり、点と点がつながれば、より大きな成果をもたらすことになると期待しています」。

 こうしたデジタルアーカイブは、海外先進国が先鞭をつけている。例えば、アメリカではメトロポリタン美術館やスミソニアン博物館がそれぞれ単独でシステム構築し、メトロポリタン美術館は37万点以上、スミソニアン博物館は約280万点もの画像を無料公開している。またフランスでは、パリ市内14の美術館のコレクションを管理する公共団体「Paris Musées(パリ・ミュゼ)」が約15万点の作品画像を「オープン・コンテンツ」として無料開放するなど、作品情報へのアクセシビリティを高めてきた。 

 そのような状況において、ジャパンサーチは今後より多くの美術館が参加することで、日本文化を海外に発信するうえでも重要なツールとなりうるだろう。また東京富士美術館のように、ジャパンサーチへの参加をきっかけに、各美術館において所蔵作品画像を自由利用可能にする試みが加速することも期待される。