絵画という伝統的なジャンルと長年向き合い続けてきたピーター・ドイグ。彼の日本初個展が、東京国立近代美術館にて開催されている。初期作から最新作までを含む油彩画32点と、直筆ポスター40点が展示され、ドイグのこれまでの画業を時系列的に総覧することができる(現在新型コロナウイルスの感染拡大防止のため臨時休館中)。
『美術手帖』6月号では、開館前の2月下旬に、ドイグへのロングインタビューをおこなった。聞き手は、美術評論家の松井みどり。ともに展覧会場をめぐりながら、本展の展示に沿って、これまでの変遷や、絵画を描き続けることに対する考えをじっくりと聞いた。
「抽象的技法と具象的主題の両方を重視する私のやり方は、周囲にはなかなか理解されませんでした。教授も学生仲間も『なんで抽象画のなかにカヌーが描かれているんだ』と不思議がり、それは私の冗談だと思われていたのです」
1990年代、チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインの修士課程時代に描かれた《のまれる》(1990)を見ながら当時を振り返る。その頃から、自身の絵画の方向性をはっきりと認識したと言う。
ドイグは2002年に、トリニダード・トバゴに移住。イギリス拠点時代との作風の変化についても、インタビューで答えてくれた。
「例えば《スキージャケット》のような点を描き続けることの誘惑は大きかったのですが、だからこそ同じスタイルを使わずに、それでも人を魅了する絵画を描きたいと思いました。ここにある絵はどれも、その工夫を示しています。《スキージャケット》から離れたくて、リアリズム的手法も故意に取り入れました」
また、インタビュー本編では、《ポート・オブ・スペインの雨(ホワイトオーク)》(2015)や、近作の《水浴者(カリプソを歌う)》(2019)に秘められた制作過程についても言及している。
絵画と向き合い続け、いまなお自分のなかの新しさをつねに生み出し続けているピーター・ドイグ。彼が絵画を描き続ける理由、そして「画家の中の画家」と呼ばれる所以とはなにか。ぜひ本誌のインタビューを読んで探ってみてほしい。