自然現象を再現する大型インスタレーション作品で国際的に高い評価を獲得し、近年は環境問題にも積極的に取り組むオラファー・エリアソン。例えば国連の気候変動会議にあわせて、グリーンランドの氷河から巨大な氷塊を取り出し、ロンドンをはじめとするヨーロッパの都市へ輸送・設置したインスタレーション《アイス・ウォッチ》は、温暖化問題を可視化し、触れる・見るといった知覚への働きかけをとおして、この深刻な課題へと人々の思考を誘うものだった。
世界各地の名だたる美術館で個展を開催するエリアソンだが、東京都現代美術館で開催予定の「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展は、気候変動と地球環境を明確に打ち出した初めての個展となる。3月14日に開幕予定だった本展は現在残念ながら延期となっているが、エリアソンは『美術手帖』6月号の単独インタビューに応え、本展に込められた思いや、コロナ禍における芸術の可能性について語っている。聞き手は、文化理論・筑波大学准教授の清水知子が務めた。
展覧会タイトルと同名の新作《ときに川は橋となる》(2020)については、モチーフとなった「水」が持つ様々な意味について言及。本作の着想源や、東日本大震災における津波被害についても語られた。
地球上の人口が増加し続けると、新鮮な水そのものが「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」のひとつになります。水は私たちの根本的な生活を表象しているのです。水には瞑想的な意味もありますし、栄養、健康、衛生をめぐる問いにも広がります。
また気候変動と資本主義の関係について問われたエリアソンは、このように答えている。
「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」は富と同等かそれ以上に、成功基準として高く設定されるべきです。100年、もしくは500年後も人間として存在し続けたいのであれば、経済的な安定や経済的利益だけでなく、社会的な成功基準をよりラディカルに導入すべきだと思います。
また現在の状況について、「美術館の休館は正しい選択」としたうえで、このように付け加える。
芸術はキャンバスや壁面、空間に依存するものではなく、どこへでも行くことができます。いまは特別な状況なので、私たちはそれに対応しなくてはなりませんが、これは芸術と文化が消えるということではありません。
コロナ禍によって、公共のあり方や地球環境との向き合い方に抜本的な見直しが迫られる現在。それでもエリアソンは、芸術や文化が持つ力について力強く語る。社会、経済、環境、そして芸術の可能性について思考するためのヒントに満ちたロングインタビューとなっている。
また「新しいエコロジー」特集では、インタビューに加え、モトーラ世理奈をモデルに迎えて本展を撮り下ろした巻頭ビジュアルページも掲載。エリアソンの作品世界を体験できる必見の内容だ。