ピエール・ユイグが語る、コロナウイルス時代の「共進化」の芸術

動植物や細胞、AI、ウイルスまで、多種多様な生物/無生物を作品に取り込むピエール・ユイグ。『美術手帖』6月号「新しいエコロジー」特集のインタビューでは、新たな生態系の創出を試みてきたこれまでの展示を中心に、「ノンヒューマン=人間ならざるもの」との共進化を標榜する芸術実践について語った。

 国際的なアートシーンにおいて大きな影響力を持つピエール・ユイグは、人間と非人間(ノンヒューマン)との関係性を模索し、展示空間において新たな生態系を生み出すことを試みてきた野心的なアーティストだ。独自の自然観・環境観にもとづく芸術実践をおこなってきた作家は、新型コロナウイルスがもたらす世界の変化について、どのように考えているのだろうか? 

 現在は拠点をチリへと移し、次のプロジェクトの準備をしているという作家が、『美術手帖』6月号「新しいエコロジー」特集のインタビューに応えた。

現在の状況は、生き物とは何かということを考え直す機会でしょう。生き物には分離はなく、むしろ異質なものへと分化していく。 共存の新たな様態、そして生命や協働の新たな様態を考えるときかもしれません。 いまこそ私たちはウイルスの視点から、その宿主を通して眺められる人間をも考えることができるでしょう。

 植物や動物、細胞、AI、科学技術システムに加え、インフルエンザウイルスまでをも作品に取り込んできたユイグは、人間が自然を搾取する人間中心主義的なあり方から脱し、人間と自然の分離を超える「共進化」の重要性を説く。

動物園、美術館、庭園の歴史は似ています。人間が自然を資源や喜びとして利用するあり方です。
ハチやアリやシロアリのような異なる性質の集合的知性や、受粉のような相互依存関係に興味を惹かれてきました。これらは物事の連続性について読み解く助けになるからです。展覧会も、異なるものたちの集合的知性による生物学的プロセスに導かれていきます。その知性が生物学的か人工的かを議論するのは時代遅れです。
『美術手帖』6月号より 写真はピエール・ユイグ《ソトタマシイ》(2017〜)

 8ページにわたるインタビューでは、太宰府天満宮(福岡県)の庭に恒久設置した《ソトタマシイ》(2017〜)や、アーティスティック・ディレクターを務めた「岡山芸術交流 2019」での試み、東日本大震災後の世界を描いた映像《ヒューマン・マスク》(2014)といった日本を舞台にした作品をはじめ、これまでの展示について語られた。

 「分離」ではなく、「連続性」や「移行」「共存」といった言葉に導かれるその芸術実践は、厳しい分断と格差が進む現代において、この世界を再考するためのひとつの糧になるだろう。

 また同特集内の「ノンヒューマン:非人間中心主義とアート」と題するパートでは、ユイグのインタビューに加え、環境哲学者ティモシー・モートンの国内への紹介者としても知られる哲学者・篠原雅武の論考を掲載する。さらに「海洋」「地層」「植物」「動物」というテーマごとに、ノンヒューマン(人間ならざるもの)を扱うアートの取り組みを紹介。植物学者ステファノ・マンクーゾや、2019年に第58回ヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞したリトアニア館のキュレーター・ルチア・ピエトロイウスティ、スペキュラティヴデザイナーの川崎和也、アーティストの藤浩志と芸術人類学者・石倉敏明の対談などを収録する。

編集部

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