有形文化財にも指定されている旧明倫小学校の建物を改築した京都芸術センターが今年、開館から20周年を迎える。これを機に、センター内にある喫茶店「前田珈琲 明倫店」が、店内のキッチンを現代アート作品にすることを発案。アーティスト・金氏徹平と、ドットアーキテクツ代表の建築家・家成俊勝がこのプロジェクトに取り組むこととなった。
前田珈琲は1971年に創業。京都に複数の店舗を構え、京都アートセンター内の明倫店をはじめ、京博店や京都国際マンガミュージアム店など、文化芸術施設の中への出店を積極的に行ってきた。
今回、金氏と家成が制作する作品《tower(KITCHEN)》は、金氏が長年制作を続けてきた「tower」シリーズ の系譜に連なる。「tower」シリーズは、石壁のような素材の塔にいくつもの穴が空いており、そこから様々なものが出ているというドローイング作品から始まった。その後「tower」は、KYOTO EXPERIMENT 2017において舞台上で立体化された《tower (THEATER)》や、六本木アートナイト2018で展開された塔の周囲で様々なアーティストがパフォーマンスを行う《タワー》など、様々な広がりを見せてきた。金氏と家成の協業も、KYOTO EXPERIMENT 2017で「tower」を立体化したときから始まっている。
今回、前田珈琲のキッチンで展開される「tower(KITCHEN)」は、これまでの「tower」のような垂直方向の塔ではなく、キッチン全体を横向きの塔にするというもの。
家成は店の中心がキッチンにあると考えた。金氏とディスカッションをするなかで、アーティストをはじめ様々な人が集まる場として、金氏の「tower」を厨房に現出させることを思いついたという。横にしたタワーの上は、舞台のようなライブスペースとなり、様々な種類のパフォーマンスも可能となる。
発案者である前田珈琲2代目社長の前田剛は本プロジェクトについてこう語る。「現在でこそ、アートとビジネスの関わりということを耳にするが、初めて京都アートセンターに出店した20年前にはその風土はなかった。地道に重ねてきた活動が、こうなったと思う。かつて文化人が訪れるスペースだった珈琲店。作品によって新たな出会いの生まれる場所となれば」。
なお、本プロジェクトはクラウドファンディングで資金を集めており、支援のリターンとして家成がデザインした椅子や、金氏のオリジナル作品なども用意される。
今年中の完成を目指して進行する本プロジェクト。喫茶店のなかのアート作品がどのようなかたちになっていくのか、今後の続報を期待したいところだ。