「ボストン美術館展 芸術×力」が3都市で開催へ。権力と芸術の関係にフォーカス

アメリカを代表する美術館「ボストン美術館」所蔵の約60点が来日する「ボストン美術館 芸術×力」が、2020年に東京都美術館、福岡市美術館、神戸市立博物館を巡回する。権力と芸術の関係にフォーカスした本展の注目ポイントとは?

 

増山雪斎 孔雀図 江戸時代、享和元年(1801) Museum of Fine Arts, Boston, Fenollosa-Weld Collection

 1870年、ボストン市民ら有志によって設立され、1876年に開館したボストン美術館。この美術館のコレクションから約60点が来日する展覧会「ボストン美術館 芸術×力」が、2020年に東京都美術館、福岡市美術館、神戸市立博物館で巡回開催される。

 ボストン美術館は、古代エジプトから現代美術まで幅広い作品を収集し、そのコレクション点数は50万点近くにおよぶ(うち日本美術は約10万点)。

アンソニー・ヴァン・ダイク メアリー王女、チャールズ1世の娘 1637頃 Museum of Fine Arts, Boston, Given in memory of Governor Alvan T. Fuller by the Fuller Foundation

 本展は、ボストン美術館日本美術課長のアン・ニシムラ・モースの発案によるもの。古今東西の権力者がその権力を誇示するためにつくらせた彫像や肖像画、宮廷を彩る装飾美術、日本の大名が描いた花鳥図などを紹介することで、芸術作品が担ってきた役割にフォーカス。「力」とともにあった芸術の歴史を回顧する。

 展覧会は「姿を見せる、力を示す」「聖なる世界」「宮廷のくらし」「貢ぐ、与える」「たしなむ、はぐくむ」の5章構成。

ジャン=レオン・ジェローム 灰色の枢機卿 1873 Museum of Fine Arts, Boston, Bequest of Susan Cornelia Warren

 本展を担当する東京都美術館学芸員・大橋菜都子は、展覧会の狙いについて次のように語る。「多くの芸術が生まれた背景には権力者たちの存在が大きかった。本展は権力者と芸術について紐解くもので、古今東西の作品を、時代や地域ごとではなく、本来担っていた役割や機能で分けて構成する」。

 なかでも注目すべきは、「日本に残されていれば国宝」とも言われるふたつの絵巻、《吉備大臣入唐絵巻》(平安時代後期)と《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(鎌倉時代)だ。

 《吉備大臣入唐絵巻》は、奈良時代の学者・政治家である吉備真備の、唐における活躍をコミカルに描いた絵巻で、全四巻から構成。絵巻制作の絶頂期であった12世紀に描かれたもので、当時の権力者である後白河院が制作に関わったものとされている。絵巻のあらすじは、「日本の偉人である吉備真備が大国・唐を懲らしめる」というものになっており、福岡市美術館学芸員・宮田太樹は「当時の外交関係からはあり得ないが、願望が投影されているのではないか」と説明する。

吉備大臣入唐絵巻 平安時代後期−鎌倉時代初期、12世紀末 Museum of Fine Arts, Boston, William Sturgis Bigelow Collection, by exchange

 いっぽうの《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》は、平安時代末に後白河上皇と二条天皇およびその近臣たちの対立を背景に起こった平治の乱を描いたもの。絵巻自体は数巻が分けて所蔵されており、ボストン美術館が所蔵する《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》では、藤原信頼と源義朝らが後白河上皇の御所だった三条殿を襲撃、拉致する場面が描かれている。権力の対峙を明確に描いた本作は、この展覧会でも重要な位置を占める。

平治物語絵巻 三条殿夜討巻 鎌倉時代 13世紀後半 Museum of Fine Arts, Boston, Fenollosa-Weld Collection

 これらに加え、日本美術では江戸時代中期の大名・増山雪斎が描いた二幅一対の《孔雀図》が、日本初公開される。

 雪斎は芸術家のパトロンでもあるとともに、文人大名でもあった。若冲や応挙らも魅力したという南蘋画風で描かれた本作には、吉祥のモチーフが散りばめられている。ボストン美術館でもほとんど公開されていないとう本作は、本展のために約1年をかけて修復。生まれ変わった本作に期待したい。

増山雪斎 孔雀図 江戸時代、享和元年(1801) Museum of Fine Arts, Boston, Fenollosa-Weld Collection

編集部

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