2008年に国立西洋美術館で初めて展覧会が開催され、一躍大きな注目を集めたデンマークの画家、ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864~1916)。その絵画が、12年ぶりに日本にやってくる。
ヴィルヘルム・ハマスホイとは、19世紀末のデンマークで活躍した画家。幼い頃から美術教育を受け、1885年に妹アナの肖像画でデビュー。初期は肖像画と風景画を中心に手がけていたが、1890年代以降は室内画を多く描くようになり、1898年に移り住んだストランゲーゼ30番地のアパートを描いた一連の作品で、デンマーク国内外から高い評価を受けた。
《室内》(1898)や《背を向けた若い女性のいる室内》(1903~04)など、生活の痕跡を消し去った作品は静謐そのもので、17世紀オランダ風俗画の影響を受けていることからも、「北欧のフェルメール」と称されている。
1911年には、ローマの国際美術展でクリムトらと並び一等を獲得するなどの活躍を見せたハマスホイだが、1916年、52歳で咽頭癌によって死去。それ以降はデンマークでも忘れ去られていたという。
そんなハマスホイが再び注目されるようになったのは、1980年代以降。とくに97~98年にはオルセー美術館とグッゲンハイム美術館で回顧展が行われ、これが再評価の大きな契機となった。また2000年代にはハンブルク美術館、ロイヤル・アカデミー、デンマーク国立美術館など様々な美術館で展覧会が開催され、注目が高まっている。
今回、東京・上野の東京都美術館(2020年1月21日〜3月26日)と山口県立美術館(20年4月7日〜6月7日)で開催される「ハマスホイとデンマーク絵画」展では、このハマスホイの作品が約40点集結。その半数が日本初公開となる。
本展で、ハマスホイ作品と並んで重要となるのが19世紀のデンマーク絵画だ。本展企画者である山口県立美術館学芸員・萬屋健司が「素朴でありながら洗練されている」とするデンマーク絵画は19世紀前半、コペンハーゲンで黄金期を迎える。
19世紀後半には古き良きデンマークを追い求め、多くの画家が地方へと足を向けた。なかでも漁師町スケーインには国内外の画家たちが多く集まり、芸術家のコロニーが形成された。印象派風の光の描写を取り入れた風景画は、いまでもデンマークで親しまれているという。
これら風景画に加えて、世紀末のコペンハーゲンを特徴づける室内画も紹介。本展は、ハマスホイの作品を紹介する展覧会であるとともに、日本初の本格的なデンマーク絵画展ともなる。
会場構成は、「日常礼賛 デンマーク絵画の黄金期」「スケーイン派と北欧の光」「19世紀末のデンマーク絵画ー国際化と室内画の隆盛」「ヴィルヘルム・ハマスホイー首都の静寂のなかで」の4章。萬屋は次のように期待を寄せる。「本展のような構成でハマスホイが紹介された事例はない。時間的、空間的な周辺を紹介することで、より深くハマスホイの芸術に触れてもらえるのでは」。