2014年は「都市と自然」、17年は「芸術祭ってなんだ?」というテーマのもと、3年に1度のペースで開催されてきた札幌国際芸術祭が、2020年に第3回の開催を迎える。
これまでの2回はともに夏に開催されてきたが、20年は初の冬季開催。会場となるのは、北海道立近代美術館、北海道立三岸好太郎美術館、札幌芸術の森、札幌市民交流プラザ、札幌大通地下ギャラリー500m美術館、札幌市資料館、そしてモエレ沼公園などだ。
同芸術祭はこれまで、坂本龍一、大友良英とアーティストたちがゲスト・ディレクターを務めてきたが、今回は初となる複数のディレクターによるチーム制。統括ディレクターで現代美術の企画ディレクターを務めるのは、横浜市民ギャラリーあざみ野主席学芸員・天野太郎。北海道立近代美術館での勤務経験(1982~86)もあり、過去には「横浜トリエンナーレ2005」のキュレーターなどを務めている。
またメディア・アートを担当する企画ディレクターは、1994年からWROメディア・アートセンター財団(現代美術、メディア、コミュニケーションを専門とするポーランドの民間公益団体)の一員として活動するアグニエシュカ・クビツカ=ジェドシェツカ。
芸術祭を来場者目線でわかりやすく伝える役割を担うという、日本の芸術祭では珍しいポジションとなる、コミュニケーションデザインディレクターには、アートの翻訳・通訳チーム「Art Translators Collective」主宰の田村かのこが就任した。
この3人がディレクションする札幌国際芸術祭2020のテーマが、「Of Roots and Clouds(オブ ルーツ アンド クラウズ): ここで生きようとする」だ。
大地の根や先祖の記憶などを意味する「ルーツ」と、手で掴むことができない雲やネットワークを表す「クラウド」を内包する今回のテーマ。
田村はこれについて「3人のディレクターで話し合って決めたもの。英題から考えました」と語る。「人間の未来を考えるとき、目の前の生活だけでなく、それこそ土の中や雲の上まで想像力をはりめぐらせ、地球全体の循環の中で考えていきたい」という思いが込められているという。
タイトルにある日本語「ここで生きようとする」を考案したのは、アーティスト・関川航平。加えて今回は、アイヌ語表記「Of Roots and Clouds」をアイヌ語訳した「Sinrit(シンリッ) / Niskur(ニシクル、※シとルは小文字)」が考案されたことも特徴的だ。
参加アーティストはまだ発表されていないが、この時点で札幌国際芸術祭2020を語るとすれば、そのキーワードは、「地域との協働」「冬」、そして「メディア・アート」となるのではないだろうか。
美術館を芸術祭の会場のひとつとするとき、その美術館の学芸員がキュレーションで直接関わることは多くはない。しかし今回、天野は自身が美術館の学芸員であるという背景を踏まえ、会場美術館の学芸員と協働し、キュレーションを行っていくという。
人口200万人規模でありながら、降雪量が5メートルを超えるというのは、札幌の大きな特徴でもある。秋元市長はこの冬季での初開催について「全国各地で芸術祭があるなか、差別化するためだ」と話す。
「札幌国際芸術祭がスタートしたときも、冬季開催についての議論はありました。冬は行動範囲に限界がありますが、雪をうまく感じてもらう工夫をしていきたい。『さっぽろ雪まつり』とアートを上手く組み合わせていけないかという思いもあります」。
この札幌市は、2013年11月にユネスコ創造都市ネットワークに加盟し、世界で2都市目、アジアで初めての「メディア・アーツ都市」となったことはご存知だろうか? 加えて、これまで2回の札幌国際芸術祭においても、様々なメディア・アートは同祭を特徴づけるものだった。
主にこのメディア・アートをキュレーションするアグニエシュカ・クビツカ=ジェドシェツカは、2020年の目的について「メディア・アートとは何かという問いに焦点を当て、初期から最新の作品までを紹介したい。いろいろなレベルの来場者をターゲットにし、巻き込んでいければ」と語っている。
いっぽう天野は過去2回を評価しつつ、札幌国際芸術祭の系譜についてこう述べた。「世代的にデジタル・デバイスに抵抗がない世代が増えてきている。メディア・アートや(保管が問題となっている)タイムベースト・メディアについても、そろそろ次のフェーズに入ってきている。誰がディレクターになろうと、札幌国際芸術祭がメディア・アートを更新していくような存在になれば面白いかもしれませんね」。
体制が一新された2020年は、同芸術祭にとって新たな一歩と言えることは間違いないだろう。コミュニケーションデザインディレクターをはじめ、新たな試みがどのようなインパクトを道内外・市内外にもたらすのか、注目したい。