今年3月、アーティストの吉開菜央が自身のウェブサイト上で手記を発表。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で2018年から約1年間行われた展覧会「オープン・スペース 2018 イン・トランジション」の出品作のひとつである吉開の映像作品《Grand Bouquet/いま いちばん美しいあなたたちへ》の一部シーンが会期中、黒く塗りつぶされたかたちで上映されていたことを明らかにした。
このことに対して5月26日、国際美術評論家連盟の日本支部にあたる美術評論家連盟(会長:南條史生)は「ICC出品作の改変に関する公開質問状」を、ICCを運営するエヌ・ティティ ラーニングシステムズ株式会社と、その親会社である東日本電信電話株式会社に送付。主たる質問は以下のようなものだ。
「『様々な来場者が想定される。企業が運営する施設である以上、不快にさせる可能性があれば原則的に変更をお願いしている』『弊社が東京五輪のゴールドパートナー(大口スポンサー)であることもある』と、NTT東日本広報室がコメントしたのは事実か?」
また上記の質問に加え、「広報室の見解を活動の指針とするのであれば、ICCの活動スタンスを一企業の広報センターと見なさざるを得ず、ICCの展示物も、つねに検閲や指導を含む事前許可を得た非自律的な広告と見なさざるを得なくなる」と指摘した。
そして同連盟は6月15日、東日本電信電話株式会社とICCから受領した回答をウェブサイト上で公開。そこでは以下のような事柄とともに、「結果的に吉開様にとって不本意な調整をお願いするかたちになってしまったことを、この場をお借りしてお詫び申し上げます」と記されている。
(1)ICCは1997年の開館以来、「コミュニケーションというテーマを軸に科学技術と芸術文化の対話を促進し,豊かな未来社会を構想」することを目指して活動を行い、「従来の枠組みにとらわれない実験的な試みや新しい表現、コミュニケーションの可能性について紹介」するという理念にもとづき出品作品を確定してきたが、「NTT東日本の企業イメージの代弁・広報」を求めるものではない。
(2)多様な来館者に対して配慮し、出品交渉の過程で展示が困難であると判断せざるを得ない場合もあるが、原則的に(アーティストに)作品の調整をお願いすることはない。
(3)《Grand Bouquet/いま いちばん美しいあなたたちへ》はNTTの研究所との連携プロジェクト展示の一環で、吉開、研究員、学芸員が連携して取り組んだ、今回の展覧会のための新作だった。
(4)ICCならびにNTT東日本はLGBT、障害者など、多様性の尊重、理解促進に向けた取り組みを推進しており、その一例として、目指す方向が合致している取り組み=東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のゴールドパートナーであることを吉開に伝えた。
(5)今後は、より連携して意思の疎通を図りながら作品制作にあたれるよう環境整備に努めるとともに、懸念される事項が発生した場合には、学芸員に加え第三者をアドバイザーにする。
今回のことを記事にしていただいたり、質問状を出していただけたことで、NTT東日本広報室の方と直接お会いできることになりました。すでに事が起きた後の後任の方だったようなので前任者、畠中さん含む当時を詳しく知るメンバーでお会いすることをお願いしています。
— 吉開菜央/Nao YOSHIGAI (@naoyoshigai) June 16, 2019
今回の質問状などを受け、NTT東日本広報室と作家のあいだで直接対話の機会が設けられることになったことを、吉開は自身のTwitterで明かしている。