世界各地にグラフィティを残す神出鬼没の覆面アーティスト、バンクシー。そのバンクシーが、赤いハート形の風船が少女から離れていくさまを描いたグラフィティ《Girl With Balloon》は2002年、ロンドンの橋の一角に出現。2014年には、シリア内戦の反戦キャンペーンの一環で本作をアレンジしたものが発表されるなど、風刺的で過激な作風で知られるバンクシーの過去作のなかでも、どこか平和的で物悲しいイメージを持つ作品でもある。
そんなアイコニックな作品が絵画化された《Girl With Balloon》(2006)が10月5日、ロンドンのサザビーズに登場。30万ポンド(約4400万円)の落札予想額を超え、100万ポンド(約1.5億円)での落札が告げられると同時に、事件は起こった。
オークショニアが落札のハンマーを下ろし、拍手が起こる場内に突如アラートの音が。すると、重厚な額縁に隠されていた装置によって、作品が細かく切り刻まれていった。
億単位の作品が、シュレッダーにかけられる書類のようになっていく様子には悲鳴も起こり、一時は騒然とした場内。しかしその「意味」を察し、しだいに笑顔を見せる関係者の姿も見られた。なぜならこの事件の黒幕は、ほかでもないバンクシーであるからだ。
バンクシーは事件後、この特殊な額縁を制作する過程から、サザビーズで切り刻まれるまでの一連の流れをダイジェストで振り返る動画をInstagramで公開。またこの投稿に「The urge to destroy is also a creative urge(破壊衝動は創造衝動でもある)」というピカソの言葉をコメントしている。
バンクシーのスタッフが、手元のデバイスで遠隔操作を行なったと言われている今回の事件。サザビーズ・ヨーロッパ現代美術部門の代表を務めるアレックス・ブランシックは、プレスカンファレンスの席で「We got Banksy’d(バンクシーにはめられてしまった)」と語り、サザビーズとバンクシーの共謀ではないことを主張している。
なお、作品が破損した場合、落札者は購入を拒否できる権利が規則によって定められているという。しかし今回の事件によって作品の価値がさらに高まることも予想されているため、通常の「破損」とは異なる成り行きになることは間違いないだろう。