20世紀のドキュメンタリー写真を代表する写真家W. ユージン・スミス。「ロフトの時代」に焦点を当てる日本初の展覧会が東京都写真美術館で開催

東京都写真美術館は、20世紀のドキュメンタリー写真を代表するアメリカの写真家であるW. ユージン・スミス(1918〜1978)の個展を開催する。

W. ユージン・スミス 無題(水俣湾での漁猟) 「水俣」より 1972 東京都写真美術館蔵 ©Aileen Mioko Smith

 東京都写真美術館で、展覧会「W. ユージン・スミスとニューヨーク ロフトの時代」が開催される。会期は3月17日〜6月7日。

 本展は、20世紀を代表する写真家として知られるW. ユージン・スミス(1918〜1978)の活動のなかでも、1950年代半ば以降のニューヨーク滞在期、いわゆる「ロフトの時代」に焦点を当て、日本で初めて体系的に紹介するものである。

W. ユージン・スミス 「私の窓から時々見ると…」より 1958 東京都写真美術館蔵 ©1958, 2026 The Heirs of W. Eugene Smith

 アメリカ・カンザス州ウィチタに生まれたスミスは、戦時下における報道写真や、『ライフ』誌に掲載された数々のフォト・エッセイによって名声を確立した写真家として知られる。戦後も「カントリー・ドクター」「慈悲の人 シュヴァイツァー」「水俣」など、人々の生活に密着した作品を次々に発表し、複数の写真と短い解説文を組み合わせて物語を紡ぐ「フォト・エッセイ」の第一人者として確固たる地位を築いた。

 1954年、スミスはニューヨークに移り住み、マンハッタンのロフトを拠点に生活と制作を行った。このロフトはたんなる住居やアトリエではなく、当時の前衛的な音楽家や芸術家、写真家たちが集う場として機能しており、頻繁に行われるジャム・セッションや交流の様子をスミスは写真に収めた。この時期の作品は、従来のジャーナリズムの枠を超え、写真の芸術的可能性を探る試みに満ちている。

 本展では、この「ロフトの時代」とその前後の作品を中心に紹介。センター・フォー・クリエイティブ・フォトグラフィー、アリゾナ大学に収蔵されているW. ユージン・スミスアーカイブの資料をもとに、当時スミスが書き残した言葉やスケッチ、新聞の切り抜きが貼りめぐらされていたロフトの壁を、ロフトで流れていた音楽とともに展示室に再現し、スミスの思考の軌跡をたどる。報道写真家としてだけでなく芸術家としてのスミスの姿に光をあて、その作品を新たな視点から再考する機会となるだろう。

W. ユージン・スミス 「屋根裏部屋から」より 1957-58頃 東京都写真美術館 ©2026 The Heirs of W. Eugene Smith
W. ユージン・スミス 「ジャズとフォークのミュージシャンたち」より 1962頃 東京都写真美術館 ©1962, 2026 The Heirs of W. Eugene Smith

 あわせて、10年以上におよぶロフトでの制作を経てジャーナリズムへと回帰したスミスが自ら企画・構成した回顧展「Let Truth Be The Prejudice」(1971年、ジューイッシュ・ミュージアム、ニューヨーク)に関連する作品や、晩年に取り組んだ「水俣」シリーズも紹介される。

 本展は、W. ユージン・スミスをたんなる報道写真家としてではなく、戦後アメリカにおける写真表現の可能性を拡張した実践者として再評価する機会となるだろう。

W. ユージン・スミス 無題(認定患者の遺影を持つ親族たち) 「水俣」より 1972 東京都写真美術館蔵 ©Aileen Mioko Smith

編集部