国立新美術館が、同館では5年ぶりとなる現代美術のグループ展「遠距離現在 Universal / Remote」を開催する。会期は3月6日〜6月3日。
展覧会タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、資本と情報が世界規模で移動する今世紀の状況を踏まえたものだという。本展では、「Pan- の規模で拡大し続ける社会」と「リモート化する個人」といった2つのテーマを軸に、このような社会的条件が形成されてきた今世紀の社会のあり方に取り組んできたアーティスト8名と1組の作品が紹介される。
出展作家は井田大介、徐冰(シュ・ビン)、トレヴァー・パグレン、ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ+ヒト・シュタイエル+ミロス・トラキロヴィチ、地主麻衣子、ティナ・エングホフ、チャ・ジェミン、エヴァン・ロス、木浦奈津子。
目には見えない現代の社会の構造や、そこで生きる人々の意識や欲望を彫刻・映像・3DCGなど多様なメディアを用いて視覚化している井田は、2021年に制作され「炎」が重要な要素となっている3点の映像作品を本展のために再構成する。実在しない「偽漢字」や漢字のように見える英文「新英文書法」の創作などで知られている徐は、初の映像作品《とんぼの眼》(2017年)を上映。役者やカメラマンが存在せず、すべての場面がネット上に公開されている監視カメラの映像をつなぎ合わせた作品だという。
地理情報と軍事機密などをテーマに、写真、映像、立体作品を制作しているパグレンは、大陸間を海底でつなぐ通信ケーブルの上陸地点の風景を撮影した「上陸地点」シリーズ、海に敷設されているケーブルを撮影した「海底ケーブル」シリーズ、パグレンが設計したAIエンジンが生成したイメージによる「幻覚」シリーズの3つを展開する。
ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ+ヒト・シュタイエル+ミロス・トラキロヴィチは、2019年に開催されたシュタイエルの個展においてレクチャー・パフォーマンスとして発表されたのち、インスタレーションに再構成された《ミッション完了:ベランシージ》を展示。ファッションをキーワードに、1989年のベルリンの壁崩壊からの30年間の、格差という風景を永遠に見せ続ける資本主義の堂々巡りの旅を説く。
映像、インスタレーション、パフォーマンス、テキストなどを総合的に組み合わせ、「新しいかたちの文学的な体験」となる作品を制作している地主。本展では、詩人・小説家のロベルト・ボラーニョの最期の地であるスペインを訪れる旅を題材にした映像作品《遠いデュエット》を展示し、現地で出会う人々との対話を通して、日本の社会を再考する。
日本初出展の作家のなかでエングホフは、孤独死した人の身元引受人を探すための新聞記事に着想を得ており、都市に存在する孤独を問う「心当たりあるご親族へ」シリーズを展示。チャは、「ネット強国」を自負する韓国社会の片隅で、「配線」という目に見えないインフラをつくる作業者の姿から、大量の情報を支える個人の労働が浮かび上がる映像作品《迷宮とクロマキー》を出展する。
絵画や彫刻、ウェブサイトまで多様なメディアを用いて作品を制作しているロスは、2021年から取り組んできた「インターネット・キャッシュ自画像」シリーズのうちのひとつで、自身のコンピューターのキャッシュに蓄積される画像データを抽出して空間を飽和させる没入的な作品をつくり出す。一貫して日常の景色の油絵を描き続けている木浦は、新作を交えて大小様々な風景をインスタレーションのように壁面いっぱいに展示する。