画家・安藤裕美(1994〜)の個展「学舎での10年をめぐって 『ナビ派』と『パープルーム』への眼差し」が神奈川県相模原市のパープルームギャラリーで開催される。会期は11月10日〜20日。
安藤はアート・コレクティブ「パープルーム」の日々の出来事(その大半が取るに足らない些細なもの)を主題に絵画、ドローイング、マンガ、アニメーションに記録していく作家だ。また、パープルームでは記録動画や画像や書類などのアーカイブ整理も担当しているが、ひとつの出来事を絵画という手法を用いて記録していくことは、手間と労力、そしてそれが安藤の活動時間の大半を閉めているという観点から、奇妙な行為である、と同ギャラリー主宰の梅津は述べている。
本展は、そんな安藤の油彩画23点をメインに紹介するものだ。それらの作品はパープルームで培った方法論を駆使して描かれており、描かれた場面やイメージだけでなく「いかに描かれているか」にすらもその時々の絵画制作の思考や行為が織り込まれ記録されている。また、安藤はナビ派、とくにボナールに傾倒しているが、たんにリスペクトする作家へのオマージュや模倣に収まらない二重性が作品にも表れているという。
「ナビ派」と「パープルーム」、ある種の共通性が見出されるこのふたつの共同体と親密に関わりながら、自身の制作に邁進し日々鍛錬を積み重ねてきた安藤。建物の取り壊しによる立ち退きがせまる同ギャラリーにおいて開催される安藤の最初で最後の個展では、その営みが刻み込まれた数々の作品を目の当たりにすることができるだろう。
今回の個展の副題が『ナビ派とパープルームへの眼差し』なのは、私が12年前から傾倒してきたナビ派とパープルームを重ね合わせて見ているからだ。ナビ派は19世紀末、フランスで活動した前衛芸術グループで、その中心メンバーは画塾アカデミージュリアンに通っていた。この塾は当初、フランスの国立美術学校エコール・デ・ボザールの予備校として設立されたものだったが、だんだんと反アカデミズムの独自の教育を施すようになった。ナビ派はゴーギャンの影響を受けつつもそこから新しい何かを生み出そうとした。ただ、メンバーに裕福な家庭のエリートが多く活動形態もゆったりしていた。そこまで活発ではない作家でもちょっと作風がそれっぽければナビ派を名乗れた節がある。パープルームの場合はみんな作風は違うけれど作家活動にかける熱量やメンバー同士のやりとりは、ナビ派よりもレベルが高いように思う。
(中略)
パープルームではこれまで様々な物語が生まれてきたが、これぞという代表的な作品をわたしはまだ生み出していない。梅津さんは個人の活動でどんどん新しい展開をしているので見ていると焦る。私は今後「パープルーム派」と名乗れるくらいの活動をしたい。
ナビ派は9年とちょっとで終わったけれど、私たちはこれからも活動を続ける。大きな動向や流れがなくてもパープルーム自体が歴史になる。私はこれからも物語を紡いでいこうと思う(公式ウェブサイト 安藤裕美「パープルームの10年を描いて」より一部抜粋)。