染色家でありアーティストでもある柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう、1922〜)の作品を見つめる展覧会「柚木沙弥郎 life・LIFE」が東京・立川のPLAY! MUSEUMで開幕した。会期は2022年1月30日まで。
柚木は型染めで布に模様を大胆に染めた染色作品をはじめ、版画や絵画、立体、絵本などの制作を70年以上にわたりつづけてきた。近年ではインテリアブランドやホテルとのコラボレーションによって、世代を超えた人気を集めている。
今回の展覧会名にある「life・LIFE」は、本展が「くらし」と「人生」をテーマにしていることから冠された。コロナに見舞われた今日において、人生をいかに大切に生きるかということを、柚木の作品から学ぼうという展覧会だ。
会場では90年代から手がけてきた絵本作品の原画約80点と、紙粘土や布でつくられた人形約20点、そして約50点の色とりどりの布をダイナミックに展示。テーマとなっている「くらし」や「人生」を、豊富な作品を通して鑑賞者に提示する。
これまで多くの絵本の展覧会を実施してきたPLAY! MUSEUMらしく、本展の冒頭を彩るのは柚木が描いた絵本の原画の数々だ。染色家として活動しながらも絵本を愛し、自らも描いてみたいと考えていた柚木に、70歳を超えてその機会がめぐってくる。
『つきよのおんがくかい』(1999)、『そしたら そしたら』(2000)、『ぎったんこ ばったんこ』(2000)、『たかいたかい』(2006)、『せんねんまんねん』(2008) など、数多くの絵本を描いている柚木。そのいずれもが身体の感覚的な楽しさに訴えかけるものばかりだ。
展示された原画には、水彩やアクリル絵具を使用したものだけでなく、型紙と防染剤で布に模様を染め出す「型染め」を使用したものもある。染色家ならではの技法によって、柚木が独自の世界観を絵のなかにつくりだしていたことがよくわかる展示となっている。
また、絵本原画とともに会場で目を引くのは、個性的でユーモラスな表情をした人形たちだ。これは柚木が絵本『トコとグーグーとキキ』(2004)のなかに出てくる町の人々を、立体的に表現することを思い立って制作したものだ。
手近にあった布や材料で40数点を一気につくりあげたというこの人形。大きさも表情も服装も様々に個性的で、柚木の手仕事がつくりだす温かみを豊かに感じられる。
絵本原画を中心とした展示スペースから、柚木の布を展示する「布の森」へと渡る廊下。ここでは、柚木の人柄を知ることができる展示が行われている。
この廊下では柚木が所有する様々なものが展示されている。柚木がお気に入りのものをしまっているというキャビネットは、陳列の状態までを会場で再現。人形、皿や器、軍艦のプラモデルなど、柚木がともに暮らしたいと思ったものが集合となり、独特の空間を生み出している。
また、梁の上に動物を並べるのも柚木流で、会場の梁にも木製の動物たちが列を成す。年表のような事実の羅列ではなく、暮らしのなかで気に入ったものと向き合う柚木のライフスタイルが感じられる展示となっている。
廊下を抜けると、約50展の柚木が制作した布が一堂に介する、圧巻の空間「布の森」が現れる。1950〜70年代ごろに多数制作された注染による作品から、近年の抽象画のように大胆な模様が印象的な作品まで、幅広い染色が展示されている。
柚木は染色作品の柄に、空や大地、あるいは人や動物、モダンなマークやシンボルといったモチーフを独自の解釈を通して落とし込んでいる。天井から吊り下げられた布は館内の空調の風を受けてゆっくりと揺れ、さらに裏が透けることで繊維の質感まで感じることができる。生き生きとした布そのものの存在感が心地よい展示を、ぜひ現地で体験してほしい。
表現の媒体は絵本から布まで様々だが、いずれも柚木が手仕事を通じて「くらし」や「人生」を存分に謳歌していることが伝わってくる。柚木の仕事を通じて、生きることの豊かさの提示を試みる展覧会となっている。