100歳を迎えていまなお、現役の染色家として老若男女の心をとらえる作品を生み出している柚木沙弥郎(1922~)。柚木とその歩みを語るうえで必要不可欠な、同時代の陶芸家、工芸家、染色家などに注目する展覧会「柚木沙弥郎と仲間たち」が大阪高島屋、日本橋高島屋S.C.で開催される。会期はそれぞれ8月23日〜9月3日、9月6日〜25日。
本展では、柚木の染色作品を中心に、ともに切磋琢磨してきた陶芸家の武内晴二郎(1921~1979)や舩木研兒(ふなきけんじ、1927~2015)、柚木に民藝の本義を伝えた工芸家・鈴木繁男(1914~2003)の作品をあわせて紹介。また、柚木の師である染色家・芹沢銈介(1895~1984)を中心に結成された染色家団体「萌木会」に集った仲間たちについても取り上げる。
会場は全3章で構成。「第1章 出会いとはじまり」では、民藝運動を担う次世代としての柚木のキャリアの始まりが紹介される。東京帝国大学(現・東京大学)で美術史を学んだ柚木は、岡山県倉敷の大原美術館の初代館長・武内潔真(たけうちきよみ、1888~1981)との出会いを契機に、日本民藝館創設者・柳宗悦の説く民藝の思想に触れた。さらに、大原美術館の売店で販売していた芹沢銈介の型染カレンダーに感銘を受け、染色に関心を持つようになったという。
染色の道を志した柚木はその後、価値観を同じくする仲間たちとの出会いを経験する。柳の紹介で芹沢に弟子入りした柚木は、静岡県由比の正雪紺屋での修行中、武内潔真の次男で陶芸家であった武内晴二郎と交流。工藝について語り合い、生涯の友となった。
1927年に陶芸家・舩木道忠の長男として現在の松江市に生まれた舩木研兒も、柚木と親交を深めた陶芸家のひとり。英国スリップウェアの技法にならい、スポイトを使用して描く動物文様がよく知られている。
日本民藝館で柚木は、柳の唯一の内弟子であった工芸家・鈴木繁男と出会った。金蒔絵師の父から小学生の頃より漆技を習い、一時期は画家を目指していた鈴木は、雑誌『工藝』73号より漆絵による表紙制作を担当。漆絵のみならず、やきもの、装幀など多岐にわたる分野で卓越した才能を発揮したという。
柚木作品の根底には、日常の暮らしのなかで用いられるための実用の布への思いがつねにあったという。「第2章 生活を彩る色・かたち・もよう」では、柚木の染色作品のなかでも、とくに生活に根差した作品群に注目。また、柚木の服地を使って家族が仕立て、実際に着用されていた服や、柚木から日本民藝館に寄贈された武内や舩木らの作品、そして柚木家の食卓で実際に用いられている品々も特別に展示される。
「第3章 ひろめる ひろげる ―萌木会の活動」では、柚木の師である芹沢が主宰した染色家団体「萌木会」の活動に焦点が当てられる。作家個人ではやりにくい仕事を協働して取り組むことを目的に活動していた同団体は、昭和30〜40年代に最盛期を迎える。当時人気を博していたテキスタイルデザインに対抗し、「萌木浴衣」を始めとする様々な型染作品を展開したという。
メンバーには柚木のほか、三代澤本寿(1909〜2002)、小島悳次郎(1912〜1996)、立花長子(1913〜2007)、岡村吉右衛門(1916〜2002)、大橋豊久(1917〜1993)、長沼孝一(1922〜1985)、四本貴資(1926〜2007)、山内武志(1938〜)といった芹沢の弟子が参加しており、同団体の活動を通じて染めの仕事を広めていった。
会場では芹沢、三代澤、小島、岡村らの各作品を紹介するとともに、萌木会染紙見本、年賀状、展示会の案内状などが展覧される。
なお、本展の開催にあわせて、高島屋では全国の民藝品の販売会も実施予定だ。こちらの会期や会場については特設サイトで確認してほしい。