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エルマーになった気分で冒険に出発しよう。「エルマーのぼうけん」展が伝える「冒険をする心の大切さ」

ルース・S・ガネットが文を、義母のルース・C・ガネットが挿絵を手がけた、世界的に有名な物語シリーズ「エルマーのぼうけん」。その原画や資料を、物語の世界観を表現した空間とともに紹介する「エルマーのぼうけん」展が東京・立川のPLAY! MUSEUMでスタートした。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「エルマーのぼうけん」展 展示風景より

 ニューヨーク出身の作家であるルース・S・ガネット(1923〜)が文を、義母のルース・C・ガネット(1896〜1979)が挿絵を手がけた、世界的に有名な物語シリーズ「エルマーのぼうけん」。その原画や資料を、物語の世界観を表現した空間とともに紹介する「エルマーのぼうけん」展が東京・立川のPLAY! MUSEUMでスタートした。会期は10月1日まで。

展示風景より

 「エルマーのぼうけん」は、どうぶつ島に捕らわれたりゅうの子を助けに行く、9才の男の子エルマーの冒険物語。1948年から51年にかけて『エルマーのぼうけん』『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』(日本語版は福音館書店刊)の3冊の物語がアメリカで出版され、日本では累計700万部を超えるベストセラーとして知られている。

 本展では、アメリカ・ミネソタ大学図書館のカーラン・コレクションが所蔵する約130点の原画が日本初公開されるとともに、同シリーズが生み出されるまでのプロセスを知ることができる貴重な制作資料や人形も展示。また、実際に絵本に入り込み、エルマーと同じ目線で冒険をしているかのような、光や音、立体造作による空間演出も注目したいポイントだ。

 企画を担当した草刈大介(PLAY! プロデューサー、株式会社ブルーシープ代表)は、開催に当たって次のように思いを語った。「本展は、日本で初めての『エルマーのぼうけん』の展覧会であり、1963年に本作が日本語に翻訳されてから60年を記念するものだ。本展の目的は、ベストセラーでもある本作についての記憶を呼び覚ましつつも、いまなぜこれを紹介することが大切なのか、というメッセージを発信することにある。そのメッセージのひとつは『冒険をする心の大切さ』だ。この企画を実現するに当たって、出版元の福音館書店や、翻訳家でありS・ガネットに関する本の著者でもある前沢さん、絵本の原画を所蔵しているミネソタ大学図書館のキュレーターのリサさん、そしてS・ガネットのご家族による多大なる協力があったことに感謝したい」。

前列左から前沢明枝(翻訳家)、リサ・フォン・ドラセク(ミネソタ大学図書館キュレーター)、後列左から草刈大介(PLAY! プロデューサー)、張替那麻(建築家、ディレクター)、三宅瑠人(グラフィックデザイナー)、岡崎由佳(アートディレクター)

 会場では、同シリーズから、4つのシーンに注目して空間演出が施されている。『エルマーのぼうけん』エリアでは、桟橋をわたり、どうぶつ島へと向かっていくことで冒険がスタートしてゆく。緻密に描かれた原画を鑑賞するため歩みを進めると、その原画作品と連動するように、周囲には動物たちの立体造作が登場。エルマーが出会ったきた個性豊かな動物たちに、鑑賞者も出会うことができるのだ。まるでジャングルに入り込んだかのように響きわたる動物たちの鳴き声にも耳を澄ませてみてほしい。

展示風景より
展示風景より
展示風景より

 とくに作中にも描かれている、エルマーがワニの背中をジャンプして川を渡るシーンも、会場では体験することができる。いままでにない体験にちょっぴり緊張してしまうのも本展ならではだ。

展示風景より

 また会場のキャプションには、時折、物語とリンクするように小石や枝がついていることもあり、この細やかなアイデアを探しながら歩いてみるのも面白いだろう。

展示風景より
展示風景より

 2作目の『エルマーとりゅう』は、どうぶつ島を脱出したエルマーとりゅうが帰宅途中に嵐に遭い、カナリヤ島に降り立つというストーリーだ。会場では、エルマーとりゅうが一緒に食べたであろうみかんの皮が落ちていたり、嵐に遭遇したときのような雨や風、雷の音が会場内に響きわたっている。エルマーとりゅうの足跡をたどるような体験だ。

展示風景より
展示風景より
展示風景より
展示風景より

 『エルマーと16ぴきのりゅう』では、家がある「そらいろこうげん」から帰ったりゅうの子が、自分の家族が人間に捕らわれ、ほら穴に閉じ込められていることに気がつく。りゅうの子がエルマーに助けを求め、ユニークな計画でその家族を救い出すというストーリーだ。

展示風景より
展示風景より、ルース・C・ガネット『エルマーと16ぴきのりゅう』見返しのための着彩画

 りゅうの子の家族である15匹のりゅうが捕らわれていたほら穴をイメージしてつくられた会場は、これから脱出しようとするりゅうたちの大騒ぎが映像や光、音で演出されている。手前のコントローラーを鑑賞者が操作することで、りゅうたちにスポットライトが当たったり、音が流れるといったインタラクティブな仕掛けになっている。すべてのりゅうにスポットライトが当たると起こる特別な演出も用意されているため、ぜひ試してみてほしい。

展示風景より

 会場の最後には、エルマーとりゅうの子の別れのシーンが展示されている。冒険の終わりと親友との別れを感じさせるこの1枚は、ここまでエルマーたちと旅した鑑賞者にとっても寂しさを感じさせるだろう。

展示風景より
展示風景より、ルース・C・ガネット『エルマーと16ぴきのりゅう』表紙のための着彩画(1961)

 物語を抜けると、作者であるS・ガネットが幼い頃に物語や絵を描いたノートや、自作の小さなオブジェ、写真などが展示されている。「エルマーのぼうけん」シリーズが生み出されるまでの創作のプロセスを見ることができる貴重な資料だ。

展示風景より

 ほかにも、本展では「ぼうけん図書館」と称された期間限定の図書館が登場する。ここでは冒険の面白さを伝えてくれる世界中の「ぼうけんの書」や、冒険家、写真家、学者、スポーツ選手、絵本作家、文学者など、様々なジャンルで活躍する人々によって選書されたものが約500冊設置されている。エルマーたちの世界観を味わった後は、本を通じた新たな冒険に出かけてみることもおすすめしたい。

展示風景より
展示風景より

 なお、本展会期中には「エルマーのぼうけん」シリーズと関連したワークショップも同館3階のPLAY! PARKで実施予定だ。夏休み期間に親子でエルマーの世界観や創作を楽しむのもよいだろう。

編集部

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