日本各地に存在する優れた「デザインの宝」を発掘し、発信する展覧会「DESIGN MUSEUM JAPAN 展 集めてつなごう 日本のデザイン」が東京・六本木の国立新美術館で開催される。参加クリエイターは田根剛、皆川明、西沢立衛、柴田文江、須藤玲子、田川欣哉、乾久美子、水口哲也、三澤遥、辻󠄀川幸一郎、原研哉、廣川玉枝、森永邦彦。会期は11月30日〜12月19日。
「design」と聞くと、近代に欧米より流入してきたデザインの系譜を連想する人も多いかもしれない。しかしここでは、日本が縄文時代から1万年以上独自に育んできたものづくりの文化を探り、地域の無名の技術者たちが長年美意識を持って育んできたものを「デザインの宝物」と定義。それらを世界へ発信、紹介するというプロジェクトだ。
本展の主催にはNHK、国立新美術館が並ぶ。本プロジェクトの構想を最初にNHKに持ちかけたのは、2012年に国立デザインミュージアムの設立を提言した三宅一生だった。国立デザインミュージアムの構想は実現しないままこの世を去った三宅一生だが、その思想はこの展覧会へとつながった。
本展は、山形、新潟、甲府、静岡、富山、和歌山、岡山、福岡の各地域からデザインの宝物を見つけ出し、クリエイターの視点でひも解き、紹介するというもの。リサーチを行ったそれぞれの地域で展示(10〜11月)したのち、昨年度に先行実施した5地域をあわせた13地域の展示品が、東京に集結することで今回の展覧会は開催される。このボリュームで入場料が無料というのも驚きだ。
ミナ・ペルホネンのデザイナー・皆川明は「デザインは、暮らす人とつくる人を幸せにするスイッチ」という言葉のもと、山形県山辺町の手織りじゅうたん「山形緞通(だんつう)」の製造工場を訪問。会場では皆川がデザイン、試作中の緞通も展示し、その制作過程も紹介されるという。
今年9月、妹島和世との建築ユニット、SANAAで高松宮殿下記念世界文化賞を受賞した建築家、西沢立衛は集落のリサーチのため佐渡の宿根木へ赴いた。江戸時代に「北前船」を造る船大工が暮らしていたこの集落について、西沢はみずから撮影した写真とともに、海路を通じて日本各地との交流があったことを示す民俗資料も展示する。
プロダクトデザイナー・柴田文江は、自身が高校時代まで過ごしていた山梨県郡内地域(吉田市、西桂町、都留市、大月市、上野原市)をリサーチ。そこで出会った「甲斐絹(かいき)」という江戸時代から明治にかけてつくられていた独特の光沢を持つ絹織物をピックアップし、紹介。現在、コストの関係で製造されていない「幻の織物」が未来の技術で再びこの時代に蘇るきっかけを提示する。
乾久美子は普段から「小さな風景からの学び」を設計の基本としている建築家。人々が大切にしている公共的な場所や習慣から気取らない地域の温かみや地元愛を感じ取り、そこでの発見やひらめきが自らの設計のヒントになっているという。本展では、静岡の「水」にまつわる「小さな風景」を探しながら、富士宮の湧水や伊豆の港、熱川の温泉をめぐる風景を紹介する。
テキスタイルデザイナー・須藤玲子は、富山県小矢部市にある世界的なスポーツウエアメーカーを訪ねた。アスリートの身体を立体測定したウエア、とくにラグビーワールドカップ2019での日本チームのジャージーは、日本躍進の立役者とも言われている。須藤は「ひとりの身体に合い、その動きを助ける服」に挑戦してきた技術者からその思考と技術をリサーチし、「オートクチュールの考え方」を持つスポーツウエアを本展にて紹介する。
日本デザインセンター三澤デザイン研究室室長で、国立科学博物館の展覧会「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」のアートディレクションでも注目を集めたデザイナー・三澤遥。「人をテーマにデザインをとらえたい」と考えた三澤は、和歌山が生んだ博物学の巨星・南方熊楠をリサーチし、その「収集」方法がデザインであることに目を留めた。会場では、南方熊楠が特別注文で作らせた鉱物の収集箪笥を展示し、「何かがすごく意味があって何かが意味がないのではなくて、全部同じように万物をフラットに見ているように感じる」南方の「視点」を紹介するという。
日本デザインセンター代表の原研哉は、「デザインは本質を見極めて可視化する営み」であるとし、自身の出身地である岡山をリサーチ。そこで、世界の船舶シェア30パーセントを占めるというプロペラメーカーを訪れた。瀬戸内海の海上交通をもとに発展したこの会社は、8メートルにもおよぶプロペラの表面の曲面を、職人の手によって100分の1ミリという精度で微調整し、仕上げている。本展では、回転力を推進力に変えるための力学としてつくられるプロペラを取り上げ、その合理性や自然の摂理にぴたりと寄り添う無駄のない美しいかたちを紹介する。
ブランド「イッセイ ミヤケ」出身の服飾デザイナーの廣川玉枝は、福岡で700年続く夏祭り「博多祇園山笠」をリサーチした。「山笠」と呼ばれる祭りで用いられる神輿は、先人がデザインしたものをもとに、毎年新しく作り変えられるという。時代を超えて生き続けるものづくりを、廣川は「祈りのデザイン」であるととらえた。本展ではその神輿を「過去と現在、そして未来をつなぐ一本柱」として紹介する。
本展の会場構成を担当するのは、弘前れんが倉庫美術館や帝国ホテル新本館(2036年完成予定)など、場所の記憶をもとに建築をつくり上げる世界的建築家・田根剛だ。各クリエーターのメイン展示を中心に、そこに付随する道具や言葉、思考を展示上や映像を通じて鑑賞できる構成となるという。また、田根自身も岩手・一戸へ足を運び、御所野縄文博物館をリサーチ。縄文時代に人が集まり定住を始めたムラの暮らしにすでにあった「デザイン」をひも解いていく。
本展についてNHKエデュケーショナル チーフ・プロデューサーの倉森京子は以下のように語る。「このプロジェクトは、人々がデザインの視点を通じて日常をより豊かな目線で見て、感じ取ってもらうためのもの。展覧会の開催にあたっては、NHKの全国ネットワークを駆使し、今回展示される8つの地域の放送局と連携して進めている。今後も継続して日本のデザインをアピールしていきたいという野望を持ちながらプロジェクトを進めていく」。
また、海外巡回展も実施。「世界を豊かにする日本」を海外発信する外務省所管事業「ジャパン・ハウス」の3拠点、サンパウロ(ブラジル)、ロサンゼルス(アメリカ)、ロンドン(イギリス)でも展示を行う予定だ。
なお、12月10日15:05〜15:50には本プロジェクトを紹介する特別番組がNHKにて放送される予定。番組ナビゲーターには櫻井翔を迎え、全国に眠るその土地特有の「デザインの宝物」をクリエーターたちの目線で紹介する。こちらもあわせてチェックしたい。