『コンビニ人間』(2016)で芥川賞を受賞した小説家の村田沙耶香。同作では、完璧なマニュアルによってコンビニエンスストアで働いているときだけ自らが「世界の正常な部品」になったと安心できる主人公の日常を描いた。その前作『消滅世界』(2015)では、人工授精での出産が当たり前になり、セックスや家族という概念がなくなりつつある世界を描いた。そして『生命式』(2019)の主人公には、「正常は発狂の一種」という強い言葉を発させた。
「正常」の構造と暴力性を浮かび上がらせる村田独自の言語世界を、アーティストのデヴィッド・シュリグリーと金氏徹平の二人が表現。対話型の展覧会「村田沙耶香のユートピア_〝正常〟の構造と暴力 ダイアローグ デヴィッド・シュリグリー ≡ 金氏徹平」として、東京・表参道のGYRE GALLERYで開催される。会期は8月20日〜10月17日。
シュリグリーは、日常風景を軽妙に描写したドローイングをはじめ、アニメーションや立体、写真など、多様な作品を手がけるアーティストだ。2013年にはイギリスの権威ある現代美術のアワード「ターナー賞」にノミネートされ、またロンドン・トラファルガー広場のパブリックアートプロジェクト「第4の台座」で発表した「立てた親指」をかたどった約7メートルのブロンズ彫刻《リアリー・グッド》は大きな話題を呼んだ。本企画では、日常風景を軽妙に描写したドローイングをはじめ、アニメーションや立体、写真などを展示する。
いっぽう金氏は、フィギュアや雑貨、あるいは日用品など、日常的なイメージを持つオブジェクトをコラージュした立体作品やインスタレーションなどで知られる。これまで「金氏徹平:溶け出す都市、空白の森」(横浜美術館、2009)、「Towering Something」(ユーレンス現代美術センター、北京、2013)、「金氏徹平のメルカトル・メンブレン」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、香川、2016)などの個展を開催してきたほか、11年以降は「チェルフィッチュ」などの舞台美術も手がけている。平成24年度京都市芸術新人賞を受賞した気鋭の存在だ。
本展は、「ユートピア」と「ディストピア」とは何かを問いかけ、現代社会における未来観に新しい視座を開く試み。村田のアイロニカルな世界観が、シュリグリーと金氏の手によって現代アートとして空間に立ち上がる。