都市に新たな「コモンズ(共有地)」を演劇の力で生みだすことを目指し、2017年から開催されているプロジェクト「シアターコモンズ」。その5回目となる「シアターコモンズ’21」のプログラム全容が発表された。会期は2月11日~3月11日。
今回のテーマは、「Bodies in Incubation – 孵化/潜伏するからだ」。Incubationは、「孵化」と「潜伏」を同時に意味する言葉。コロナ禍により、集会や移動が制限され、人々の身体には大きな変化が起きている現在、その言葉は、隔離や自粛によって卵に籠もってエネルギーを蓄える孵化の時間や、見えないウイルスの発症可能性を待ち続ける時間を生きる私たちの状態も意味する。
参加作家はツァイ・ミンリャン、中村佑子、小泉明郎、スザンネ・ケネディ&マルクス・ゼルク/ロドリック・ビアステーカー、バディ・ダルル、百瀬文、佐藤朋子、高山明/Port Bなど。リアル空間とバーチャル空間の両方で、パフォーマンス、体験型アート、ワークショップ、言論イベントなどを展開する。
台湾を代表する巨匠映画監督ツァイ・ミンリャンは、初めて手がけたVR映画『蘭若寺(らんにゃじ)の住人』を上映。台湾のメーカーHTCが開発したVRシステムVive Proを駆使した本作は、ヴェネチア国際映画祭のVR部門で初めて発表。観客は360度の視野から映画のなかに入り込み、自分自身が物語のなかに浮遊するようなリアルな体験を得ることができる。
あいちトリエンナーレ2019でVR演劇作品『縛られたプロメテウス』を初演し、「シアターコモンズ’20」で同作を再演した小泉明郎は、その続編とも言える新たなVRパフォーマンス作品『解放されたプロメテウス』を発表。失われたギリシャ戯曲『解放されたプロメテウス』をコロナ禍の現代に接続した本作は、仮想空間とリアル空間の双方において、複数の観客が参加できる儀礼的パフォーマンスとして再構成される。
そのほか、映画監督・作家の中村佑子のAR体験型映画『サスペンデッド』や、スザンネ・ケネディ&マルクス・ゼルク/ロドリック・ビアステーカーのVRパフォーマンス作品「I AM (VR)」、高山明/Port Bのツアーパフォーマンス「光のない。ーエピローグ?」、百瀬文のセラピーパフォーマンス「鍼を打つ」、バディ・ダルルのワークショップ「架空国家の作り方」などにも注目したい。
加えて、ツァイ・ミンリャンらをゲストに迎えたトークイベントや、病と死、治癒と再生などをテーマにしたフォーラムも開催。多様な形式の展示やイベントを通じ、体内に潜伏するウイルスと共存しながら新たな生命を抱卵し孵化する「待機のからだ」に向き合ってほしい。