デジタル化が進む今日、手を介したドローイングの意義は増大している。東京都現代美術館では、線を核とする様々な表現を現代におけるドローイングとして注目し、それらの可能性をいくつかの文脈から再考する展覧会「ドローイングの可能性」を開催。本展では、「言葉とイメージ」「空間へのまなざし」「水をめぐるヴィジョン」をキーワードに掲げ、ドローイングがつねに変化していく人や社会のあり様そのものと示していく。会期は3月14日~6月14日(3月14〜15日は休止)。
「言葉とイメージの往還」は、今日の視覚表現のなかでもっとも本質的なトピックのひとつといえる。本展では、言葉とイメージの関係や、そのあわいにあるものを「ドローイング」というキーワードから再考。自ら書き下ろしたテキストを作品化した書家の石川九楊やアンリ・マティスの作品を例としながら、イメージだけでなく手書きの言葉も含めてドローイングとしてとらえ、両者の関係を探るという。
また、紙の上に描くといった平面上で広がる線だけでなく、支持体の内部に刻まれるものや、空間のなかで構成される線なども視野に入れて内容を展開。「空間へのまなざし」という観点から、戸谷成雄や草間彌生の初期の仕事や、盛圭太の作品を展示する。
そして流動的な水をめぐるヴィジョンが、想像力の飛翔を促すドローイングの主題として、画家たちに多く取り上げられてきた点にも注目。ここでは、長期的かつ幅広いスケールで環境をとらえ、多彩な表現活動を行ってきた美術家・磯辺行久、さらに山部泰司の作品などが並ぶ。複雑化した現代において、もっとも根源的でシンプルな表現であるドローイングこそ果てしない可能性を秘めていると再認識する機会になるだろう。