ソピアップ・ピッチは1971年生まれ。ポルポト政権下の悲惨な時代に育ち、79年に家族でタイ国境近くの難民キャンプに5年間滞在。84年には一家でアメリカに移住し、90年からマサチューセッツ大学アマースト校で医学を専攻する。しかしペインティングへの興味を捨てきれず、ファインアート専攻に転部し95年に卒業。その後の99年にシカゴ美術館附属美術大学ペインティング専攻を修了した。
2013年には個展「Cambodian Rattan: The Sculptures of Sopheap Pich」(メトロポリタン美術館)を開催。また17年には日本で「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」(森美術館・国立新美術館、2017)に参加のほか、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「VIVA ARTE VIVA」に出展した。
そんなピッチの個展「RECLAIM―再生」が、東京・六本木の小山登美夫ギャラリーで開催される。会期は12月20日~2020年1月25日。
ピッチは02年にカンボジアに帰国し、農村での生活に戻ることを決意。故郷の植物や風景、自身が学んだ人間解剖学や都市構造にインスピレーションを得て、竹やラタン、ワイヤー、蜜蝋などで有機的かつ幾何学的な立体作品の制作を始める。そしてミニマリズムを彷彿とさせるような11年以降のグリッドによるレリーフ作品も、ピッチの代表的な表現のひとつとなっている。
本展では、従来の編み込み技法と、ピッチがこの7年でカンボジア各地から集めたアンティーク家具などの木材、金属、牛革を組み合わせた新作のレリーフと立体作品を発表する。レリーフ作品では家具の木材と、その構造の竹の編み込みによる再現を併置し、家具の継ぎ目や傷跡も再現。同作には、中国やベトナムへの密輸によって減少するカンボジアの木材に対するピッチの懸念が表れている。また、古い美術作品をすべて戦争で失ったカンボジアでは、古い家具は重要なものとみなされずに残っているといい、ピッチはこうした家具にアートとしての価値を付与することで、失われた文化に光を当てる。
また立体作品のシリーズ「Animal」は、水牛と牛の角、革、竹、ラタン、木、金属を素材とした大型のもの。同作には、カンボジアの農業はいまだ牛や馬を主要な動力としていること、そして逆に世界では近代化によって機械が動物の代わりとなり、動物が必要とされなくなっていることへの暗喩が込められている。
自身も40ヘクタールの土地を所有し、木やココナッツを植え育て農業を営んでいるピッチ。カンボジアのあり方や未来に対する責任とともに、素材が持つ時間に思いを馳せて生み出された作品群を、この機会にチェックしたい。