ASEAN10ヶ国のアーティストを網羅的に紹介
経済発展が目覚ましい近年、その現代アートの動向にも世界中から大きな注目が集まっている東南アジア。その現代アートを一堂に紹介するのが、7月5日より始まった「サンシャワー 東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」だ。
「天気雨」を意味する「サンシャワー」は、東南アジア地域で頻繁にみられる気象現象であり、紆余曲折の歴史を経てきた同地域を表すメタファーとなっている。本展は、時代の潮流と変動を背景に発展した、東南アジアにおける1980年代以降の現代アートを、9つの視点から紹介している。
国立新美術館と森美術館が初めて合同で開催する本展の構想は、5年前に青木保が国立新美術館館長に就任した直後から始まった。青木と森美術館館長の南條史生はともにアジアの美術、アートシーンに造詣が深いことで知られる。そこで、近年急速な成長を遂げ、日本との関係も深まっているにもかかわらず、まだあまり理解が進んでいない東南アジア地域を取り上げることになったという。
本展では、東南アジア在住のインディペンデント・キュレーターを含む14名のキュレーターチームが、10ヶ国16都市で2年半にわたってリサーチを重ね、全86組の参加アーティストを選定。ASEAN10ヶ国すべてのアーティストを網羅して取り上げる展覧会は、世界初となる。
展覧会は9つのセクションで構成されており、国立新美術館では「うつろう世界」「情熱と革命」「アーカイブ」「さまざまなアイデンティティー」「日々の生活」の5セクション、森美術館では「発展とその影」「アートとは何か? なぜやるのか?」「瞑想としてのメディア」「歴史との対話」の4セクションを見ることができる。
うつろう世界と東南アジアの日常
国立新美術館では、指文字で「民主主義」を表現したインドネシアのFXハルソノによる《声なき声》(1993-94)や、シンガポールのマレーシアからの分離独立をカラオケルームで表現したブー・ジュンフェンの《ハッピー&フリー》(2013)、見ることとは何か、主観とは何かを巨大なインスタレーションで見せるスーザン・ビクター《ヴェールー異端者のように見る》(2017)など、東南アジア諸国が歩んできた、決して平坦とは言えない歴史や、権力と市民との対立構造を主題にした作品が多く見られる。
いっぽうで、タイのナウィン・ラワンチャイクン《ふたつの家の物語》(2015)や、シュシ・スライマン《スライマンは家を買った》(2013)など、それぞれの日常生活をそのまま作品として扱うインスタレーションもあり、より身近なものとして東南アジアの実態に触れることもできる。
経済成長の光と影、新たな表現者たち
高度経済成長と、急激な開発が進んできた東南アジア。森美術館では、これに焦点を当てたアーティストが集まる。開発によって住民の立ち退きが進むプノンペンで、自宅を展示空間として開放しているカンボジアのティス・カニータの《天使の小屋》(2011/2017)をはじめ、インドネシア語で「でたらめ」を意味する口語表現「Ngaco」をブランドとして展開し、日用品の国家の安全基準を皮肉るインドネシアのアディティア・ノヴァリ《NGACOプロジェクト──国家への提案》(2014)など、経済成長が生み出した光と影に対するアーティストたちの眼差しに着目したい。
また、タイのコラクリット・アルナーノンチャイや、ベトナムのトゥアン・アンドリュー・グエンなど、生活に根付く神話や信仰などをテーマにしながら、ドローンやLEDなど現代の様々なメディアを駆使する、新たな流れもそこにはある。
このほか、歴史との対話として、ロスリシャム・イスマイル(イセ)が故郷・マレーシアのクランタン州で1941から45年までの間に起こった出来事をジオラマにした《もうひとつの物語》(2017)や、「サンシャワー」展を象徴するようなフェリックス・バコロール《荒れそうな空模様》(2009 / 2017)なども展示。
本展では、すべての作品において東南アジア諸国の多様な歴史、政治、文化を色濃く感じることができる。近いけれどもあまり知られていない東南アジアとその現代アート。その潮流を、現代のアーティストたちを通して概観したい。